研究課題
多発性骨髄腫は骨破壊を来す難治性悪性腫瘍であるが、腫瘍抑制と骨病変に骨再生をもたらす治療法の開発が喫緊の臨床課題である。申請者は、腫瘍細胞と骨髄微小環境との細胞間相互作用により破骨細胞や骨芽細胞の前駆細胞である骨髄間質細胞は腫瘍細胞の増殖を促進しアポトーシスを抑制する一方、基質産生をし活性化している骨芽細胞においてはむしろ腫瘍細胞をアポトーシスへ導くことから、骨系細胞の種類・分化段階で腫瘍進展を正あるいは負に調節するという興味深い現象を見出した。また申請者は、骨髄腫の腫瘍進展と骨破壊・喪失をもたらす細胞内シグナルに関わる枢軸的な因子としてTAK1を見出し、TAK1阻害により腫瘍抑制のみならず、TAK1阻害薬は骨芽細胞分化を促進させ、破骨細胞分化を抑制することから、骨病変形成も抑制することを見出した。そこで本研究では骨系細胞の腫瘍ニッチを形成する新たな分子の探索と、TAK1経路を標的とした新規の機序で腫瘍抑制を図りつつ、骨喪失部に骨再生と腫瘍排他的ニッチを誘導するという画期的な治療法の開発をインディアナ大学との国際共同研究で行う。本年度は4月から10月までインディアナ大学医学部血液腫瘍学分野にて実際に研究を行い、以下の結果が得られた。1.IGF1は腫瘍の生存や薬剤耐性に重要な枠割を果たしており、これまで骨微小環境では骨基質・骨芽細胞・腫瘍細胞がその供給源と考えられていたが、破骨細胞自身が産生し微小環境の中での主な供給源と考えられた。2.野生型マウス骨髄から分化させた破骨細胞と腫瘍細胞を共培養させると「腫瘍細胞の増殖のみならず、抗腫瘍薬の薬剤耐性がみとめられたが、破骨細胞特異的IGF1ノックアウトマウスから破骨細胞を分化させ、腫瘍細胞を共培養させると、抗腫瘍薬によるアポt-シスが誘導された。
2: おおむね順調に進展している
今年度は実際に共同研究機関の赴いて研究することができた。渡航先研究機関では成熟骨芽細胞誘導による腫瘍抑制性ニッチ形成の検証を行うためのex vivoの実験系を習得することができた。具体的には、マウス脛骨を取り出し、骨髄腫細胞と各種阻害剤を添加し、2週間培養後、マイクロCTおよび組織学的解析にて、骨形成誘導の有無と併せ、腫瘍の増殖・生存を検討することができた。現在この方法を用い、国内でも詳細な検討を行っている。また、腫瘍ニッチには破骨細胞からのIGF1は非常に重要な役割を果たしていることが明らかになった。渡航先研究機関には破骨細胞特異的IGF1ノックアウトマウスも保有していたため、破骨細胞による腫瘍の増殖や薬剤耐性について詳細に解析することができた。以上から、破骨細胞からのIGF1が治療標的になる可能が大いに示唆され、新たな国際共同研究につながった。これらの結果は、国際共同研究として今年度のアメリカ血液学会にて発表することができた。
渡航先研究機関より習得したex vivoの実験系を用い、骨芽細胞活性化状態での腫瘍細胞の生存・増殖を細胞生物学的・組織学的に詳細に解析する。また、破骨細胞からのIGF1が腫瘍細胞の生存のみならず、薬剤耐性にも寄与しており、申請者のこれまでの検討でTAK1阻害により破骨細胞からのIGF1産生が抑制されることから、TAK1-IGF1シグナルを介した腫瘍細胞の生存・薬剤耐性における機序を詳細に解析する。さらに、渡航先研究機関から破骨細胞特異的IGF1ノックアウトマウスの供与いただけるとのことなので、現在受け入れを準備している。
すべて 2020 2019
すべて 雑誌論文 (4件) (うち査読あり 4件、 オープンアクセス 4件) 学会発表 (7件) (うち国際学会 3件、 招待講演 1件) 産業財産権 (1件) (うち外国 1件)
Haematologica
巻: - ページ: -
10.3324/haematol.2019.234476
Cancers
巻: 12 ページ: -
10.3390/cancers12040929
Oncotarget
巻: 10 ページ: 1903-1917
10.18632/oncotarget.26726
JBMR Plus
巻: 3 ページ: -
10.1002/jbm4.10182