研究課題
多発性骨髄腫は骨破壊を来す難治性悪性腫瘍であるが、腫瘍抑制と骨病変に骨再生をもたらす治療法の開発が喫緊の臨床課題である。申請者は、腫瘍細胞と骨髄微小環境との細胞間相互作用により破骨細胞や骨芽細胞の前駆細胞である骨髄間質細胞は腫瘍細胞の増殖を促進しアポトーシスを抑制する一方、基質産生をし活性化している骨芽細胞においてはむしろ腫瘍細胞をアポトーシスへ導くことから、骨系細胞の種類・分化段階で腫瘍進展を正あるいは負に調節するという興味深い現象を見出した。また申請者は、骨髄腫の腫瘍進展と骨破壊・喪失をもたらす細胞内シグナルに関わる枢軸的な因子としてTAK1を見出し、TAK1阻害により腫瘍抑制のみならず、TAK1阻害薬は骨芽細胞分化を促進させ、破骨細胞分化を抑制することから、骨病変形成も抑制することを見出した。そこで本研究では骨系細胞の腫瘍ニッチを形成する新たな分子の探索と、TAK1経路を標的とした新規の機序で腫瘍抑制を図りつつ、骨喪失部に骨再生と腫瘍排他的ニッチを誘導するという画期的な治療法の開発をインディアナ大学との国際共同研究で行う。前年度インディアナ大学医学部血液腫瘍学分野にて破骨細胞由来IGF1が骨病変形成のみならず薬剤耐性にも大きくかかわっていることが明らかとなったが、さらに研究を進め、以下の結果が得られた。1.TAK1は破骨細胞からのIGF1だけでなくBAFF、APRILなど骨髄腫の薬剤耐性を惹起させる因子の産生を制御することが明らかとなり、TAK1阻害により破骨細胞による薬剤耐性が抑制された。2.TAK1依存的に骨髄腫から産生される分子としてNeogenin1(NEO1)を見出した。NEO1は、骨髄腫において高産生されること、さらにBMP2の囮受容体として作用することで、骨芽細胞分化を強力に抑制することが明らかとなった。
2: おおむね順調に進展している
新型コロナウイルスの影響と代表者の岡山大学への異動等で、今年度はインディアナ大学での研究活動ができなかった。しかし、電子メールやWeb会議で綿密に連絡を取り合い、国内において十分に研究を行うことができ、その結果、破骨細胞からのIGF1やその他薬剤耐性を惹起する因子の発現制御メカニズムや、新たな骨形成抑制因子を同定することができたため、研究は順調に進展していると考える。
引き続き、渡航先研究機関より習得したex vivoの実験系を用い、骨芽細胞活性化状態での腫瘍細胞の生存・増殖を細胞生物学的・組織学的に詳細に解析する。また、破骨細胞のTAK1-IGF1シグナルを介した腫瘍細胞の生存・薬剤耐性における機序を詳細に解析する。さらに、渡航先研究機関から破骨細胞特異的IGF1ノックアウトマウスの供与いただけるとのことなので、現在受け入れを準備している。結果が出ている項目もあるため、論文投稿の準備を進める。
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すべて 雑誌論文 (4件) (うち国際共著 1件、 査読あり 4件、 オープンアクセス 4件) 学会発表 (3件) 産業財産権 (1件)
Haematologica
巻: 106 ページ: 1172~1177
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Cancers
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JCI Insight
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