神経障害性疼痛ラットを用いて、複数の脳領域における脳活動や各脳領域間の活動連関と行動変化の相関性について解析を行った。まず、神経障害性疼痛ラットを作製し、痛み閾値を測定したところ、神経障害後1週間より機械刺激に対する痛み閾値の低下が認められ、術後2ヶ月まで持続していた。次に、神経障害性疼痛時の脳活動の変化を明らかにするため、大規模多点電気生理学的測定を、無麻酔・無拘束状態のラットで行った。測定する脳領域を決定するため、疼痛に関与すると考えられている脳領域における神経投射について、神経トレーサーを用いて解析を行った。神経終末より取り込まれ細胞体まで輸送される逆行性神経トレーサーを用いた結果、側坐核-淡蒼球-内側視床-前帯状回皮質-後帯状回皮質-RSB-補足運動野という神経回路が存在していることが明らかになった。次地、これらの脳領域の脳活動を同時記録すると、神経障害性疼痛の持続により、脳活動の変化が顕著に見られる脳領域が複数存在しており、また、周波数に特異的な活動の変化を示すことが明らかになった。脳活動の動態パターンを解析すると、特定の脳領域間の興奮同期性や周波数依存的な情報伝達・因果性が高まることが明らかになった。特に、動物の覚醒状態に依存せず、脳活動の変化が常に認められる脳領域が複数認められ、これらの脳領域が神経障害性疼痛の持続により、影響を強く受ける脳領域であることが示唆された。これらの領域は、体性感覚認知に関係するだけでなく、情動面の調節を行っている脳領域も含まれている。さらに、脳活動としてはθ帯域神経活動が上昇しており、γ帯域神経活動が減少していることを見出し、これらの帯域神経活動において、複数の脳領域間の活動同期性が変化することも明らかにした。これらの結果より、神経障害による慢性疼痛の発現には情動に関わる脳領域の周波数依存的な活動変化が関与することが明らかになった。
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