本研究は、合成した製剤の最適化のため最先端の電子顕微鏡群及び放射光を用いた評価系の確立を目的にして実施した。本研究を遂行する中で、種々の有機無機複合製剤を調製することができた。その中で、金属が含有されていても母材と複合することで毒性の低い有機無機複合製剤の調製をすることに成功した。また、製剤の基剤である高分子種を変えることにより、薬剤の徐放速度や金属の放出量を調節できることが明らかになった。本研究では、ターゲットであるバイオフィルムのモデル菌として、グラム陽性菌Staphylococcus epidermidis (S. epidermidis)とグラム陰性菌Escherichia coli (E. coli)を用いた。2019年度は、仏国のパリディドロ大学にて、液中観察ホルダーを用いて有機無機複合製剤への電子線ダメージが少ない観察条件を導くことに成功した。また、インジェクションシステムを用いた液中TEMによる動的な観察により、これまで理論でしか分かりえなかった高分子製剤の液中における合成反応を視覚的に捉えることに成功した。2023年度には、英国diamond light sourceに滞在し、放射光を用いたXRF分析・イメージングで、液体セルを用いて溶液中の製剤とバイオフィルムの分析・イメージングができる条件を探り、最適な条件で製剤中の金属ナノ粒子およびバイオフィルム形成菌の構成元素を捉えることができた。放射光を用いたXRF分析・イメージングと液中TEMを用いたイメージングを実施することで、有機無機複合製剤中の金属ナノ粒子がバイオフィルム形成菌S. epidermidisとE. coliに及ぼす影響を明らかにした。
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