研究課題/領域番号 |
17KK0179
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研究機関 | 福岡大学 |
研究代表者 |
塩井 成留実 (青木成留実) 福岡大学, 理学部, 助教 (50510187)
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研究期間 (年度) |
2018 – 2020
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キーワード | venomous snake / toxin, inhibitor / Toxinology |
研究実績の概要 |
本研究では、世界で多くの犠牲者を出す毒ヘビ咬傷被害を国際共同研究より社会的および学術的な研究背景に潜む問題点の具体化し、その被害の改善策を進展させるため、以下に示す3点を目的としている。 ・世界の毒生物被害の現状把握とその治療法についての情報を集め、具体的な解決策を検証する。 ・毒ヘビ咬傷治療薬開発におけるプラットフォームを構築する。 ・有毒生物研究の活性化となる毒素生産細胞株を樹立する。 また、上記の目的を達成するために初年度の実施計画は、次の4点であった。1)国際学会へ参加し、公表されていないヘビゲノム解析の状況を把握すること。2)ヘビ毒酵素阻害ペプチド合成と精製。3)天然阻害タンパク質と毒素複合体の立体構造解析を行うこと。4)ヘビ繊維芽細胞の細胞培養条件を検討すること。 研究初年度の研究実績の概要を上記の目的に沿って以下に示す。1)「10.研究発表」に示すように、平成30年度は3つの国際学会に参加し、研究代表者のこれまでの成果を積極的に発表してきた。その結果、世界の有毒生物研究分野の専門家が集うコミュニティに加わり、実際、いくつかの共同研究を展開している。2)天然阻害蛋白質の阻害領域を考慮して、8つのペプチドを合成し、阻害能を評価した。しかし合成したペプチドは天然阻害蛋白質に比べて、10倍の阻害活性低下がみられた。現在、同時に進めていた大腸菌発現系によりペプチド抗体を調整している。これらの中には、in vitro実験系で阻害活性を示す抗体の合成に成功している。3)天然阻害タンパク質と金属プロテアーゼ毒素の調製は順調であった。そのタンパク質複合体の結晶化は、微結晶を得ることに成功した。現在結晶化最適条件検討を行っている。4)新鮮なヘビ組織を入所するルートを確保し、また、爬虫類由来の細胞培養に経験がある研究者とのヘビ繊維芽細胞の細胞条件について検討済みである。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
初年度の実施計画は、「5.研究実績の概要」で述べたように比較的順調に推進できている。その理由は、初年度に海外へ積極的な活動を行ったことにより、今後予定している渡航時期に合わせ、各国の毒ヘビ咬傷被害の現地視察の具体的な日程調整とその視察内容の具体的な予定が決まっているからである。国を超えた現地視察は、現地の当該研究分野の専門家の協力が必須であり、実際に現在の渡航前にその手がかりを掴んだことは申請時期の計画よりも画然と本研究の目的達成を近いものとする。ヘビ毒阻害剤の構築については、マウスを用いたin vivo実験計画を慎重に行うため、阻害剤デザインや数多くのペプチドの合成を行い、in vitro実験で評価している。結合評価も踏まえたいくつかの実験系を用いて、致死活性を示す毒素に対して高い阻害能を阻害剤だけを確実にスクリーニングしているため労力と時間はかかっている。しかしながら、ファージディスプレイ法によるヘビ毒阻害ペプチドライブラリの作成に成功したこと、また既に当研究室には阻害活性評価の実験系のノウハウが蓄積されているため予定通り、阻害剤の構築はできている。ヘビ組織の細胞培養については、申請時の予定とは異なり、実験室の移動およびインキュベーターの不調などいくつかの不具合が生じた。そのため、ある一定期間細胞培養ができなかった。しかしながら、その問題点が浮上した際、すぐに、初年度後期に予定していた実験と二年目前期に予定していた実験を入れ替え。この実験時期の変更は、不死化細胞の樹立という最終目的を達成することに影響はない。なぜなら、不死化に必要な遺伝子配列の情報収集やその遺伝子クローニングは必ず本研究期間中に必要な実験であるからである。 以上、研究推進に当たって微少な研究計画の変更は生じたが、予測範囲であり、臨機応変に対応し、おおむね順調に二年目の計画を遂行予定である。
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今後の研究の推進方策 |
今後、主に2019年度の実施計画は、おおむね申請時に予定していた通り以下の3点を計画している。 ・有毒生物被害の現地調査:昨年度の活動より、毒ヘビ咬傷被害が多い東南アジア、アメリカ、アフリカを中心とした各国の研究施設(動物園を含む)およびNPO財団の関係者からの協力を得ている。渡航時期に合わせ、日程調整を具体的に行っている。 ・毒素阻害剤評価:ファージディスプレイ法により、ヘビ毒阻害を示す抗体ライブラリの作成に成功した。現在、in vitroで毒素に対して結合および阻害を示すペプチド抗体を同定し、大腸菌で大量発現できるように調整している。次にマウスを用いたin vivo実験による最終阻害評価を行う予定である。 ・毒腺、腫瘍組織のサンプリングと培養:沖縄県の協力より、まずは本ハブおよびエラブウミヘビの毒腺サンプリングを行う。日程は調整済みである。これまで日本国内において腫瘍を持つヘビを発見した場合は、連絡をもらえるようにいくつかの施設に依頼をしていた。しかしながら、いまだ報告を受けていない。今年度は、昨年度に知り合いになった各国の研究者に対しても協力を呼びかけ、サンプリングが円滑に行えるように調整を行う。
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