研究実績の概要 |
研究代表者らは、以前寒冷暴露時に高効率に褐色化する新規のWAT(inducible BAT, iBAT)を発見し、寒冷暴露により、末梢組織の幹細胞マーカーである遺伝子Xの発現が顕著に誘導されることを見出した。研究代表者は、平成30年8月に渡英し、まず線維芽細胞株を用いたin vitroの分化誘導を行った。令和元年度にはこれらの細胞株を用いた分化実験を重ね、種々の遺伝子発現を定量解析した。次にマウスから単離したBAT, iBAT, WATのin vitro分化実験を行い、iBATの初代培養細胞の褐色化誘導に成功した。解析の結果、細胞株での分化実験では遺伝子Xは成熟白色脂肪細胞にはほとんど発現しないこと。褐色脂肪細胞への分化誘導ステージではむしろ発現抑制されることがわかった。また、各脂肪組織の初代培養細胞のin vivo実験でも同様の傾向を示した。また、脂肪細胞株や脂肪組織からの初代培養前駆脂肪細胞を用いて、ノルエピネフリンで刺激しベージュ化誘導を試みたところ、熱産生に重要なUCP1発現が誘導されるものの遺伝子X発現は誘導されなかった。従って、遺伝子Xは成熟脂肪細胞への分化やベージュ化には必須ではないことが示された。一方、より初期の分化段階での遺伝子Xの役割を解析するため、ヒトiPS細胞を用いて褐色脂肪細胞への分化誘導を行った。面白いことに褐色脂肪細胞への分化とともにUCP1の発現は次第に上昇するものの遺伝子Xの発現は一過性に増加し、後に速やかに減少していた。これらの結果から、細胞株や脂肪組織では培養時には既に幹細胞の特性を失っている可能性が考えられた。そこで、令和2年度にはヒトiPS細胞で遺伝子Xを破壊し、褐色脂肪細胞への分化誘導効率やノルエピネフリンによるUCP1発現誘導を指標に褐色化を検討する予定である。
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