研究課題
近年、免疫チェックポイント阻害剤やがん抗原特異的TCRまたはキメラ抗原受容体(CAR)遺伝子導入T細胞を用いたがん免疫療法は第四の治療法として注目されている。しかし、これらの治療法は重篤な副作用、がん免疫編集機構による免疫系の疲弊、高額な治療費、ウイルスベクターを用いた遺伝子導入など非常に多くの問題を抱えている。一方、2020年、米国においてPD-1、内在TCR遺伝子を欠損させたゲノム編集T細胞を用いたがん免疫細胞療法の臨床試験が実施され、患者の体内で機能することが明らかとなったことから期待されている。しかし、現在、臨床試験が進められているゲノム編集T細胞の作成にはCas9 RNPの電気穿孔法を用いた煩雑な細胞調整過程が必要であり、今後、幅広い臨床応用を行うには簡便な細胞調整技術が必要である。そこで本研究課題ではT細胞に対してCRISPR/Cas9ゲノム編集技術を用いた非ウイルス遺伝子導入技術を開発し、1 STEPで抗原特的T細胞を作成し、各種がん、免疫疾患モデルマウスを用いて、その細胞の有効性を評価することで、免疫細胞療法の基盤技術を構築することを目的とした。令和2年度、米国の新型コロナウイルス感染の拡大により、米国共同研究先における本研究課題に関連した研究活動が大幅に制限されたが、令和元年度に海外共同研究先とともに開発したT細胞用遺伝子導入ナノ粒子の技術を活用し、新たにCAR遺伝子、T細胞疲弊抑制関連遺伝子を封入したナノ粒子を開発した。また、これらのナノ粒子をヒトCD8(+)T細胞に添加することで簡便にCAR遺伝子、T細胞疲弊抑制関連遺伝子を高効率で遺伝子導入できることを確認した。さらにはPD-1ゲノム編集ナノ粒子との共遺伝子導入によりPD-1(-)CAR(+)ヒトCD8(+)T細胞を得られることを確認した。
3: やや遅れている
本年度、新型コロナウイルスの感染拡大により、米国の共同研究先のSalk研究所は研究所封鎖、長期にわたる研究活動の制限を行い新型コロナウイルス関連以外の研究活動は1年に渡り制限された。また共同研究を行っている米国企業も同様に新型コロナウイルスワクチン、治療薬の研究開発を急遽進めることになり、本研究の進捗に大きな遅れが生じた。
昨年度の予定していたT細胞用に開発したゲノム編集ナノ粒子を用いて作成したゲノム編集ヒトT細胞の機能解析を進める。また新たにCAR遺伝子、T細胞疲弊解除を趣旨とした遺伝子を封入したナノ粒子を開発し、抗腫瘍活性に対する効果の評価を進める。
すべて 2021
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Aging (Albany NY).
巻: 13 ページ: 446-461
10.18632/aging.202696.