研究実績の概要 |
食べ物の香りや風味はおいしさをつくるが、腐敗物の臭いは不快感をつくる。また、納豆のような発酵食品の匂いは、食経験の有無によって好き嫌いがわかれる。嗅覚によって形成される快不快情動は動物に適応的な行動を促し、また過去の経験は匂いへの情動形成に適応的に影響する。嗅結節は嗅覚入力を受ける腹側線条体領域であり、主要な軸索投射先は腹側淡蒼球である。本研究課題では、嗅結節および腹側淡蒼球の神経回路構造と快不快情動の形成への関与を明らかにする。 2020年度はCovid-19の影響によりミシガン大学アナーバー校Berridge研究室への渡航が中止となった。そこで当該年度では、嗅結節から腹側淡蒼球への軸索投射を詳細に解析するための2種のウイルスベクターと、マウス・ラットの快不快情動の指標とされる超音波発声(ultrasonic vocalization, USV)の測定システムを導入した。軸索標識に用いるアデノ随伴ウイルス(adeno-associated virus, AAV)は、1つは軸索線維全体を赤色蛍光タンパク質(tdTomato)で、同時に軸索終末を緑色蛍光タンパク質(synaptophysin-GFP)で標識するAAVである。もう1つは、嗅結節の2種類の投射ニューロン群を異なる蛍光タンパク質で同時に標識できるAAVである(AAV-Ef1a-DO_DIO-tdTomato_EGFP)。これらのAAVを用いて、嗅結節から腹側淡蒼球への軸索投射を評価している。USV測定では、ラットが嗜好性食品(チョコレート)を摂食する際に、40-50kHz帯域の発声を観察した。ラットの超音波発声は帯域ごとに異なる情動状態を示し、40-50kHzは快情動に関わるとされている。現在、行動薬理実験、およびオプトジェネティクスを用いて嗅結節-腹側淡蒼球の活動を操作し、USV発声への影響を評価している。
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