本研究は、不明な点の多いレジスタンス運動による骨格筋適応メカニズムにおけるmTORC2/c-Mycの役割について明らかにすることを目的としている。 本年度は主にc-Mycの過剰発現が骨格筋に及ぼす影響について解析を進めた.アデノ随伴ウイルスをベクターとしてc-Mycを骨格筋において過剰発現させた.まず,RNA-Seq解析によってc-Myc過剰発現が遺伝子発現に及ぼす影響について検討したところ,主にリボソーム生合成に関わる遺伝子が上方制御されていることが分かった.実際にリボソーム生合成が促進されているか検討したところ,リボソームRNA前駆体やtotalRNA量(約8割がリボソームRNAのため,リボソームRNA量の指標として用いられている)の増加が観察された.加えて筋タンパク質合成の増加も観察された.c-Mycの過剰発現は主要なタンパク質同化シグナル経路であるmTORシグナルに影響を及ぼさなかったことから,mTORシグナルとは独立してリボソーム生合成や筋タンパク質合成を増加させると考えられる.レジスタンス運動はc-Mycを増加させることから,c-Mycの増加がmTORシグナルとは独立した筋タンパク質促進メカニズムである可能性が考えられる.筋収縮によるc-Mycの発現調節については不明な点が多いが,骨格筋特異的Rictor欠損(mTORC2抑制)マウスではc-Mycのタンパク質量が野生型に比べ少ないことから,筋収縮によるmTORC2の活性化がc-Myc増加の一要因である可能性が考えられる.
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