申請者は原発性胆汁性胆管炎(PBC)のT細胞の網羅的遺伝子発現解析により、PBCでは健常人と比べ、T細胞受容体(TCR) シグナリングパスウェイが活性化していることを明らかにした。N-Rasはそのパスウェイの制御分子であり、PBCにおいても高発現を認めた。さらに、N-RasはPBCで低下を示すmiRNA群の標的とされていた。そして、そのmiRNA群を補充しN-Rasを抑制することでTCRシグナリングパスウェイが抑制できることを明らかにした。それらの結果からN-Rasの抑制によりPBCの病態を制御できる可能性を考えた。 本研究ではハンブルク大学との共同研究により欧州コホートでの解析を行い、PBC患者(n=19)と、健常群(n=18)、原発性胆管炎(PSC)患者を疾患コントロール群(n=17)とし対象の末梢T細胞のN-Ras発現を定量的 RT-PCRとフローサイトメトリーにより明らかにした。これによりPBC群で特異的にN-rasとIFN-γとIL-2が高発現することを明らかにした。また、PBCでのN-Ras発現はその治療により変動を来たし、治療奏効マーカーとなり得ることが示された。N-Rasを抑制することで、PBCのT細胞の活性化を正常化することができる可能性を示した。 次ぎに、薬剤スクリーニングによるN-Ras標的薬の選出では、N-Ras抑制作用をランキング化し、強いN-ras抑制作用を有する薬剤の選出を行った。そして、選出されたN-Ras抑制剤はT細胞活性の抑制によりIFN-γのを抑制した。そのため、選出されたN-Ras抑制薬はPBCの炎症を抑制する可能性があると考えられた。
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