研究課題
進化学において近年有力な文化的集団淘汰仮説は、人類史において集団間の争いが、人間の協力性を発達させたと主張する。本研究は、この仮説を批判的に検討し、現実の紛争問題解決のための示唆を得るため、次の3つの問題を検証することを目的とする。(1)人間社会において協力が成立するためには集団間葛藤が必須であるのか、(2)集団間葛藤が無くとも協力が成立するならばそのために必要な要件は何か、(3)(2)の要件の下で、個人はどのような過程により協力をするか否かの意思決定を行うのか。この目的のために本研究では、人間の協力性が成立する要件について、文化的集団淘汰仮説を進化学・人類学・思想史の観点から批判的に検討して仮説群を抽出し、それを心理学・認知神経科学に基づく実験的研究、生物人類学に基づく動物フィールド研究、数理モデルによるシミュレーションにより多角的に検討することを目指している。平成29年度には、2回の研究集会を行って文化的集団淘汰仮説を理論的に検討した。また、紛争と協力の背景メカニズムとして社会的規範への追従性を考え、さらにその背後には利得や損失への敏感性があるという仮説を構成して、これを検証する実験計画を立案した。この実験の課題を実現するコンピュータ・プログラムと、そこでのメカニズムを記述する計算論的モデルを実装した。これらを用いて、こうした現象の神経メカニズムを検証するために安静時fMRIとMRIによる神経画像研究を開始した。フィールド研究では、ヒヒ集団を観察するための装置や観察計画などの準備を進めた。また、多数のエージェントが最後通牒ゲームのような社会的ジレンマ状況での交渉を繰り返しながら、協力集団が生成し崩壊していく様子を再現するコンピュータ・シミュレーション・モデルを試作し、その動作を検討した。
2: おおむね順調に進展している
申請書に記載したように、1)実験研究では実験課題と計算論モデルの実装、それを用いた実験(データ収集)の開始、2)フィールド研究では動物観察の準備、3)シミュレーション研究では基礎的なモデルの試作、4)理論的研究では文化的集団淘汰仮説の理論的検討、が予定どおり進行した。特に1)では、まだデータ収集中であるが、有望な結果が得られつつある。
現在進行中の神経画像研究を完了すべく、平成30年度前半においてデータ収集を継続する。また、新たな実験課題による実験研究を開始する。フィールド研究では、少数の動物を追跡して予備的な観察研究を開始する。シミュレーション研究では、前年度に開発したモデルにさらにパラメータを追加し、より現実的なモデルに洗練する。現在の課題としては、実験研究、フィールド研究、シミュレーション研究の各分野の知見を、どのように理論的に統合するのかを、さらに精緻に検討する必要がある。この点について今年度は、各研究グループのリーダーによる会合を行って議論する。
野生環境でヒヒを観察するためのGPS装置を開発する予定であったが、業者の都合で困難になり、別の機種選定を行っているため予定していた物品費が未執行である。またリサーチ・アシスタントを雇用する予定であったが、雇用が遅い時期になったため予定より謝金の執行が少なくなった。これらの問題は別の手段で代替しており、研究の遂行には支障が出ていない。
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すべて 国際共同研究 (5件) 雑誌論文 (9件) (うち国際共著 3件、 査読あり 8件、 オープンアクセス 4件) 学会発表 (9件) (うち国際学会 3件、 招待講演 2件)
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