集団間の紛争は未だに世界各地で繰り広げられている。外集団から受けた内集団の危害は報復行為を引き起こし、紛争を悪化させるという。特に深刻なのは非当事者同士においても集団間報復(集団間代理報復)が生じることである。近年、この集団間代理報復の背景要因の一つとして内集団成員に生じた出来事に対し喚起される集団間感情(“我々”の出来事として生じる感情)が注目されている。そこで、本研究では機能的磁気共鳴画像法(functional magnetic resonance imaging : fMRI)を用いて、集団間代理報復を促す集団間感情の神経基盤について検討を実施した。特に、神経科学的アプローチとして、脳活動パターンに基づく心の状態の予測・弁別が可能な多ボクセルパターン解析(multi-voxel pattern analysis:MVPA)を用いた。実験では、社会的迷惑行為や犯罪行為の刺激文を用いた課題で、加害者が日本人であるかどうか、そして被害者が日本人であるかどうかで怒り感情がどのように異なるのか、また脳活動のパターンが異なるかどうかについて検討を実施した。その結果、被害者が日本人である場合に怒り感情が顕著に高くなることが示された。また、被害者が日本人であるかどうかによって脳活動パターンが顕著に異なることが確認された。加えて、これらの行動、脳活動パターンは国家主義等の個人差の影響、社会的情勢の影響が生じる可能性が示唆された。したがって、これらの点については引き続き検討を進める。本研究で得られた研究成果については、今後も学会・研究会などで報告する予定であり、最終的な研究成果については海外の学術雑誌において報告する予定である。
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