研究課題/領域番号 |
17KT0010
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研究機関 | 立教大学 |
研究代表者 |
常盤 広明 立教大学, 理学部, 教授 (10221433)
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研究分担者 |
中野 祥吾 静岡県立大学, 食品栄養科学部, 助教 (80748541)
石川 岳志 鹿児島大学, 理工学域工学系, 教授 (80505909)
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研究期間 (年度) |
2017-07-18 – 2020-03-31
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キーワード | 産業応用酵素 / 人工酵素 / 第一原理計算 / 分子動力学シミュレーション / 高解像度X線構造解析 / フラグメント分子軌道計算 / 基質特異性 |
研究実績の概要 |
高い選択能を有する酵素の特性を生かした産業応用酵素群の開発は、資源の乏しい我が国において世界を牽引する科学技術革新として極めて重要な課題である。そこで本研究では、高精度な第一原理計算を用いた『Dry (計算化学、バイオインフォマティクス) 』手法と熱化学測定やX線結晶構造解析などを用いた『wet (酵素化学、構造生物学)』実験とを融合した新たなアプローチにより、高い選択能を有する酵素の特性を生かした産業応用酵素群を合理的に設計・開発することを目的としている。実際の対象としては、血液サンプル中に含まれる特定のアミノ酸、L-Thr濃度の定量計測への応用が期待されている短鎖型L-スレオニン脱水素酵素(TDH)等の標的タンパク質を取り上げた。特に、酵素反応における遷移状態を明らかにするだけでなく、天然型酵素の機能を目的に合わせて改変し、反応そのものを分子レベルで制御することで、天然酵素の活性を凌駕し、適用範囲を拡大した人工タンパク質(人工酵素)の合理的設計開発を目指した。今年度は昨年に引き続き、各種標的酵素に対する理論的解析をさらに推進した。特に、フラグメント分子軌道(FMO)計算に基づいて、標的酵素と基質との各種相互作用エネルギーを効率的に3D表示をする汎用化ツール群の開発に成功した。これらの結果は国内外の学会等で発表するとともに、専門誌(J.Chem.Info.Model)に公表した。このツール群の詳細な解説および酵素系への応用については、Springerより今年度発刊予定の書籍中に掲載予定である。さらに、これまでの構造を基盤とした解析に加えて、配列解析に基づくバイオインフォマティックスを利用した新たなWet-Dry融合解析により、基質特異性の起源の解明だけでなく、産業応用上、さらに機能向上した新規アミノ酸定量用酵素の合理的な創製への道を開くことができた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
昨年度に引き続いて、実験担当の静岡県立大、ならびにプログラム開発担当の鹿児島大の両分担グループとの密なる連携の下、Wet-Dry融合が機能的に進行し、順調に共同研究が遂行された。特に昨年度、実験的に高精度な構造決定がなされたmTDHのapo-型構造に対して、FMO計算に基づいて基質―酵素間の相互作用エネルギーを定量的に評価・解析するために、それらを効率的に3D表示し、基質結合に伴う誘導適合や、酵素反応による相互作用変化を解析する新規ツール群を新たに開発した。このツール群は、構造生物学など広く世界中の実験科学者に利用されているPyMOLプログラムのPlugInとして開発されているため、新たなプログラムを学習する必要なしに利用でき、開発グループの異なる3種のFMOプログラム(PAICS,ABINITMP,GAMESS)すべてに対して、統一的に利用できる。さらも同ツール群は、開発者のウエブページよりマニュアルとともにフリーダウンロード可能な形式で提供可能とした。これらの結果は、専門論文(J.Chem.Info.Model)などに公表し、詳細な説明と酵素などへの応用例については新たな発刊予定のFMO解説専門書籍の独立Chapterとして紹介される予定である。また、昨年度と同様に本研究におけるアプローチ手法の適用範囲を拡大するため、高選択有機化学反応の反応解析やタンパク質複合体の相互作用解析などについて適用し、それらに関しても、学会発表、論文等に成果として発表できている。今年度も順調に研究成果が積み上げられたが、論文の公表に関しては、サイエンス全体として、やはりトップジャーナル掲載への壁は厚く、専門雑誌への掲載に留まってしまった。今後は多点変異法などの新規バイオマティクス手法を加味して、機能性の向上だけなくこれまで達成されていない新規な活性を有する人工酵素の合理的設計創製に挑む。
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今後の研究の推進方策 |
昨年までは、wild typeに対するapo-型初期構造への基質結合に伴う構造変化などの反応初期の解析が主な課題であった。今年度はそれらに加えてハイブリッド多層型計算に基づく反応経路解析などを行い、遷移状態、中間体などを含む反応経路解析を行った。現状では、酵素反応の各段階におけるすべての遷移状態の決定には至らなかったが、基質結合後の反応初期段階に対して、鍵となるアミノ酸相互作用を特定し、一部の遷移状態や中間状態を得ることができた。今後は、酵素活性の起源である選択性の発現に深く関連する反応後基質の脱離過程を含む酵素反応の全容解明に挑みたい。 さらに、構造を基盤としたwild typeのみに対する理論解析だけでなく、フルコンセンサス配列設計や祖先型配列設計など第四次革新的技術を利用したバイオインフォマティックスによる多点変異を導入した人工酵素を設計創製し、単なる活性向上ではなくこれまでになかった活性を有するなど、天然酵素をも凌駕する新たな産業応用酵素の創製に向けて、新規配列設計を行う。
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次年度使用額が生じた理由 |
特になし
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