研究課題
高い選択能を有する酵素の特性を生かした産業応用酵素群の開発は、資源の乏しい我が国において世界を牽引する科学技術革新として極めて重要な課題である。そこで本研究では、高精度な第一原理計算を用いた『Dry (計算化学、バイオインフォマティクス) 』手法と熱化学測定やX線結晶構造解析などを用いた『wet(酵素化学、構造生物学)』実験とを融合した新たなアプローチにより、高い選択能を有する酵素の特性を生かした産業応用酵素群を合理的に設計・開発することを目的としている。実際の対象としては、血液サンプル中に含まれる特定のアミノ酸、L-Thr濃度の定量計測への応用が期待されている短鎖型L-スレオニン脱水素酵素(TDH)等の標的タンパク質を取り上げた。特に、酵素反応における遷移状態を明らかにするだけでなく、天然型酵素の機能を目的に合わせて改変し、反応そのものを分子レベルで制御することで、天然酵素の活性を凌駕し、適用範囲を拡大した人工タンパク質(人工酵素)の合理的設計開発を目指した。最終的には、各種標的酵素だけに留まらず、創薬標的の中心である核内受容体やウイルスタンパク質に対する理論的解析についても推進した。特に、FMO計算に基づいて、標的タンパク質と基質・リガンドとの各種相互作用エネルギーを効率的に3D表示をする汎用化ツール群の開発に成功した。これらの結果は国内外の学会等で発表するとともに、専門誌(J.Chem.Info.Model)に公表した。このツール群の詳細な解説および酵素系への応用については、Springerより今年度発刊予定の書籍中に掲載することとなった。さらに、これまでの構造を基盤とした解析に加えて、配列解析に基づくバイオインフォマティックスを利用した新たなWet-Dry融合解析により、実際に応用可能なレベルに機能向上した標的タンパク質の合理的な創製への道を開くことができた。
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J. Chem. Inf. Model
巻: 59(1) ページ: 25-30
doi.org/10.1021/acs.jcim.8b00649