研究課題/領域番号 |
17KT0012
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研究機関 | 同志社大学 |
研究代表者 |
木村 佳文 同志社大学, 理工学部, 教授 (60221925)
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研究分担者 |
八坂 能郎 金沢大学, 自然システム学系, 特任助教 (80631910) [辞退]
遠藤 太佳嗣 同志社大学, 理工学部, 准教授 (50743837)
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研究期間 (年度) |
2017-07-18 – 2020-03-31
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キーワード | イオン液体 / プロトン移動 / 電子移動 / 不均一構造 |
研究実績の概要 |
本研究では極性部位と非極性部位からなるドメイン構造をもつイオン液体中での化学反応のポテンシャル面を、不均一な溶媒和座標と反応座標の二次元イメージとしてとらえ、反応経路を溶媒によって制御する可能性を追求することを目的とするものである。今年度は昨年度構築した過渡吸収システムの本格的な運用を行い、数mODのオーダーで精度よく過渡吸収スぺクトルが測定できるシステムが完成した。励起波長400nmでプロトン移動系の過渡吸収測定を行い、イオン液体および溶質分子のアルキル鎖長がプロトン移動の収率や反応速度に及ぼす影響について検討した。TD-DFTなどの手法により溶質分子の電子状態も検討し、反応速度との相関を検討した。また定常蛍光測定から反応収率の励起波長依存性の溶質分子のアルキル鎖長依存性を検討した。そのほかプロトン性のイオン液体や超臨界アルコール中でのプロトン移動反応の調査もおこない、溶媒の反応性が溶媒のイオン性によって変化するという興味深い結果を得ている。またニトロアニリン系の過渡吸収スペクトルの測定をすすめ、スペクトルの評価から電子移動速度に対するイオン液体のアルキル鎖長の効果について検討を進めた。その結果イオン液体の無極性部位の増加に伴うイオン液体の電荷密度の変化が、電子移動反応速度におおきな影響を与えていることが分かった。 一方でイオン液体の無極性部位における分子ダイナミクスを明らかにするために、種々のアルキル鎖長のイオン液体中でのCO分子の回転緩和の測定をNMRにより行い、これまで予測したアルキル鎖長と回転緩和時間の相関の上に新たについかしたすべてのデータがきれいにのることを確認した。このCOの回転運動については分子動力学シミュレーションによりCOのイオン液体中における分布を評価し、無極性部位の環境をそのダイナミクスが反映していることも理論的に明らかにした。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
過渡吸収測定による種々のイオン液体中での反応速度の評価ならびに溶質分子の多様性の検討は、おおむね計画通り進んでいる。ただ励起波長依存性の評価については、定常蛍光測定のみであり、時間分解測定についてはまだ手が付けられていないので、少々遅れがみられる。ただし、光学系の調整についてはほぼ見通しが立っており、最終年度に向けても準備が整いつつある。また不均一環境の評価については、おおむね計画通りであり、MDシミュレーションの評価も含めて順調である。最終年度に向けて、その詳細を検討する状況にある。 以上のことより、実験はほぼ順調であると考えれられるが、一部遅れが生じている状況であると判断した。
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今後の研究の推進方策 |
プロトン移動反応系について、今年度はさらにアミノ基についたアルキル鎖長を8まで伸ばしたフラボノール分子の合成をおこない、これまでの系との比較検討を進める。過渡吸収スペクトルの測定をおこない、基底状態および励起状態のスペクトルダイナミクスから、アルキル鎖長効果によって遷移状態がどのように変化しているのかを考察する。さらに励起波長を変化させたときにダイナミクスがどのように変化するのかを測定し、遷移状態が励起波長によってどのように制御可能かを検討する。これらの実験結果にたいして、電子状態計算もすすめ、アルキル鎖長をパラメーターとした反応速度の表現がかのうかどうか検討をおこなう。また、同時に昨年度興味深い結果を得たプロトン性イオン液体中におけるプロトン移動系についても、イオン液体のプロトン性によって遷移状態が制御できる可能性を検討する。 COの回転緩和については、今年度は主にMDシミュレーションの方法による、詳細な検討をすすめる。COの溶存環境ごとの回転緩和時間などの評価を進め、COがイオン液体中でいかに無極性環境を感じているかを明らかにする。実験的にはCOより少し大きいCO2についても検討をすすめ、分子サイズが不均一分布にどのように反映されるかを検討する。あわせてさらに大きな溶質分子の検討もすすめ、不均一分布とのかかわりを明らかにする。この溶質分子の回転ダイナミクスの結果からみつもられる溶質分子まわりの不均一環境とあわせて、フラボノール系でのプロトン移動反応における不均一場の効果がどのようにあらわれているかを考察し、イオン液体における遷移状態制御について考察を深める。
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次年度使用額が生じた理由 |
少しの余剰が出たがおおむね計画通りである。余剰金は次年度の消耗品代として用いる予定である。
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