研究課題/領域番号 |
17KT0018
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研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
上村 匡 京都大学, 生命科学研究科, 教授 (80213396)
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研究分担者 |
古谷 寛治 京都大学, 放射線生物研究センター, 講師 (90455204)
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研究期間 (年度) |
2017-07-18 – 2020-03-31
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キーワード | 栄養 / 成長 / 生物間相互作用 / オミックス |
研究実績の概要 |
栄養条件、特に栄養成分のバランス(栄養バランス)というものが個体の成長や器官形成に果たす役割については、不明な点が多くある。多種類の栄養成分の量の組み合わせは無限にあり、成長や病態に与える因果関係を体系的に調べるのは容易ではない。この課題を克服するために、被食者と捕食者との生物間相互作用に着目し、被食者が含む栄養バランスの多様性と捕食者の応答メカニズムの、双方を検証する構成的アプローチを採用している。 方法の一つとして、捕食者としてショウジョウバエ(Drosophila melanogaster)の幼虫を、被食者として出芽酵母を用いた。酵母の一遺伝子ノックアウトコレクション(5,153株)をスクリーニングして、酵母野生株を摂食させた場合と比べて幼虫の発生率を低下させるノックアウト株の分離を目指した。そして、それぞれの酵母株でノックアウトされている遺伝子を、代謝経路データベース・Kyoto Encyclopedia of Genes and Genomes (KEGG) を利用して、酵母の代謝経路上にマップすることを試みた。代謝経路上にマップできた遺伝子については、ターゲットメタボローム解析などに向けた条件決定を開始した。出芽酵母の一遺伝子ノックアウトコレクションを用いる方法とは別に、自然界においてショウジョウバエの幼虫が捕食する共生微生物にも注目した。バナナなどのエサを入れたトラップを野外に仕掛けて、発酵したエサに含まれる細菌および真菌に注目して解析を始めた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
酵母とハエを用いたスクリーニング系の構築は、双方にとって適切な生育条件を見出す必要があり、挑戦的だった。幼虫の密度、飼育容器のサイズ、湿度の管理など、多数の条件を最適化し、スループットの高いスクリーニング系を構築した。また全行程のプロトコールを整備し、このスクリーニング系を研究室内の他のメンバーが習得できるようにした。スクリーニングにより分離できた一遺伝子ノックアウト酵母株の中には、野生株を摂食させた場合と比べて幼虫の発生率を低下させるか、あるいは発生を遅延させる株や、逆に野生株より発生率を高める株も含まれていた。分離した酵母遺伝子の産物が、特定の代謝経路内の反応を触媒する酵素であれば、幼虫の成長に影響を与える栄養バランスの乱れは、その経路内の代謝産物群の変動が原因となる可能性がある。特定の代謝経路にマップされた遺伝子のノックアウト株の中で、摂食した幼虫の発生率を劇的に低下させる株に注目した。各株において注目する代謝産物群の量をターゲットメタボローム解析などで検出し、野生株とノックアウト株との間で比較するための条件検討を行なっている。一方で、遺伝子産物が特定の代謝経路上にはマップされないノックアウト株も多数分離された。 自然界でショウジョウバエと共生する微生物に着目したアプローチでは、発酵したエサから細菌および真菌を株化すると共に、微生物叢の解析を目指して微生物のゲノムDNAの抽出条件の最適化を試みた。
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今後の研究の推進方策 |
ターゲットメタボローム解析などから絞り込んだ候補代謝産物のうち、精製標品として購入あるいは合成可能な産物をノックアウト株に添加する。そして幼虫にエサとして与えた際に発生率や成長速度の表現型が回復するかを検証し(レスキュー実験)、幼虫の成長にとって重要な栄養バランスの特性を明らかにする。このレスキュー実験においては量依存的な効果も調べる。一方で、特定の代謝経路上にマップされなかった酵母遺伝子については、原因遺伝子の産物が局在する細胞小器官や遺伝子機能に着目して、解析の対象を狭める。例えば、ミトコンドリア、液胞、輸送小胞、そして核に局在するタンパク質をコードする遺伝子が分離できており、それぞれの分子機能に応じて、遺伝子発現解析や代謝産物解析のどれから着手するかを決める。 共生微生物に注目したアプローチでは、発酵したエサから18S rDNAまたは26S rDNA(真菌)、あるいは16S rDNA(細菌)を増幅した後、高速シーケンサーを用いて共生微生物叢の構成を調べる。また単離した菌株を用い、それぞれを培地に単独で接種した場合や、混合して接種した場合で幼虫の成長に与える効果を比較・検討する。
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次年度使用額が生じた理由 |
ターゲットメタボローム解析を実施するにあたって、代謝経路によっては産物群を検出するための誘導体化プロトコールを確立する必要が生じた。また、別の代謝経路では、代謝産物ごとに検出に必要な試料の量が異なることがわかった。これらの理由により、本年度にメタボローム解析に当てる予定額の一部を次年度に使用し、最終的なデータを得る。
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