自己組織化によるカイメン骨片骨格機構が形態多様性を生み出す仕組みの構成的解析

2017 年度 実施状況報告書

• 研究課題/領域番号: 17KT0019
• 研究機関: 京都大学
• 研究代表者: 船山 典子 京都大学, 理学研究科, 准教授 (30276175)
• 研究期間 (年度): 2017-07-18 – 2022-03-31
• キーワード: 骨格形成 / 自己組織化 / カイメン / 多様性 / 形態形成

研究実績の概要

通常とは異なる骨片を骨格骨片として用いさせる試みの手始めとして、２枚のディスクと軸型の芽球骨片を移植する試みを行った。ドナーカイメンにおいて人工的に芽球形成を誘導、独自の手法で形成中に芽球骨片を蛍光可視化した。その後、通常のハイター、Tween-20などデタージェントを用いて細胞内で形成される芽球骨片を単離、レシピエント・カイメンに移植した。移植方法も様々に検討したが、移植した芽球骨片の運搬は観察されてなかった。淡水カイメンの骨格骨片はどれもほぼ同じ形状であるため、今後海産カイメンの骨片を用いる予定である。

新たにヌマカイメンの芽球からの個体形成実験系を立ち上げた。芽球の単離法の問題（殻が非常に薄く簡単に芽球が破裂する、休止状態の保持のため厳しい低温管理が必要など）に対し工夫、培養温度、光の有無などについて検討を行った。カワカイメンで独自に確立した手法を応用、ヌマカイメン骨片の可視化にも初めて成功した。この過程で、ヌマカイメン芽球からの個体形成過程で、カワカイメンと比較し、基質上に広がる速度、骨片形成速度に違いがある可能性、骨格形成には直接関与しないが、上皮組織などに遊離骨片が存在するようになり、上皮組織の形状が異なると考えられることなど、骨格形成に影響する可能性がある性質を複数見いだした。この様に準備段階が進んだため、今後、タイムラプス撮影によりカワカイメンとヌマカイメンの骨片骨格形成過程の差異を解析できる。

トランスクリプトーム解析のために、最小限のカイメン個体で新たな芽球が形成され日のオーダーでほぼ同調する実験条件を確立した。また、1970年代の組織学的な報告があるのみであった、完成した芽球骨片を細胞内に保持した芽球骨片形成細胞と小型細胞による細胞複合体による芽球骨片運搬をコンフォーカル顕微鏡をもちいた明視野タイムラプスにより詳細に観察することに成功した。

現在までの達成度 (区分)

3: やや遅れている

理由

ヌマカイメンの芽球からの個体形成過程を用いる実験系を立ち上げ、骨片の可視化に成功、プレリミナリーなタイムラプス撮影を行い、着目すべき複数の点を見いだすことが出来た。特に予想していた差異以外に、ヌマカイメンでは外側上皮に遊離骨片（骨格に用いられない骨片）が多数存在することが明らかになったことは想定外の成果である。
しかし、ヌマカイメンとカワカイメンとの骨片骨格形成過程の詳細な比較は平成30年度に持ち越すこととなりやや遅れている。

今後の研究の推進方策

骨片骨格形成過程におけるヌマカイメンとカワカイメンの骨片骨格形成過程に関する差異の可能性に関し、研究計画段階考えていた以外に、平成29年度の観察の結果から新たな可能性を考えるに至ったためこの点にも着目して解析を進める。具体的にはヌマカイメンでは外側上皮組織に遊離骨片（骨格に用いられない骨片）が多数存在することが明らかになったため、「遊離骨片の重さや、上皮組織の硬度への影響による外側上皮の挙動の差異」という視点も含め解析を展開する。加えて平成29年度の解析から改めて必要性を感じたヌマカイメンの詳細な成長過程の観察、遊離骨片が外側上皮似存在するようになる時期の決定をという基礎的な解析をまず行い、その解明の上に、骨片骨格形成過程における上皮組織の挙動、特に骨格骨片が上皮組織に刺さる過程、および建てられた骨片に沿って上皮組織が上がる過程に着目して解析を行う。

次年度使用額が生じた理由

年度末まで雇用予定であった実験補佐員の方が出産により早めに退職なさったため。