研究課題/領域番号 |
17KT0020
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研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
佐藤 ゆたか 京都大学, 理学研究科, 准教授 (40314174)
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研究期間 (年度) |
2017-07-18 – 2020-03-31
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キーワード | ホヤ / 遺伝子発現調節 / ブール関数 |
研究実績の概要 |
遺伝子調節ネットワーク(GRN)の研究が良く進んでいるモデル生物であるカタユウレイボヤの胚を用いて、実験データに基づいた遺伝子発現のシミュレーションをおこなうことを目指して研究をおこなった。平成29年度は特に32細胞期に注目して、研究を進めた。 本研究のシミュレーションに必要な情報は、個々の遺伝子発現を調節する関数、調節因子の発現パターン、誘導シグナルを受容する細胞がどれか、というものであり、計算機を使ったシミュレーションと実験を繰り返して、最初の胚性の発現が始まる16細胞期から順次、胚の遺伝子の発現パターンを再構成することを目指した。 32細胞期には少なくとも15個の遺伝子が9種類の異なるパターンで特異的に発現を始める。このうちの6種類のパターンを示す遺伝子については、単一あるいは複数の上流候補遺伝子のノックダウン実験によって、調節関数をブール関数を使った式で様々な実験条件に矛盾の無い形で決めることができた。のこり3種類のうち、Snail・Wnttun5の発現は、当初に想定した母性因子または16細胞期までに発現する調節因子の組み合わせでは説明できなかった。そこで、未知の分子の関与があると考え、それを特定する実験を進めた。その結果、ホヤ胚では、MAPキナーゼ経路のRafキナーゼの一部が、オルタナティブスプライシングによって構成的活性型として存在しており、少なくともSnailの発現にはこの構成的活性型Rafが機能していることが分かった。ほかの2種類の発現パターンについては、複数のブール関数が候補として残った。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
Snailが構成的活性型Rafによって調節されるという予想外の発見があった。そのため、当初の予定よりもブール関数の決定が遅れているが、構成的活性型Rafによる調節という発見は、遺伝子発現調節の新しい機構として重要で、この分野の理解を進める成果だと考えている。
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今後の研究の推進方策 |
平成30年度は引き続き32細胞期の発現調節のブール関数の決定をおこない、その十分性を証明し、コンピューター上でのブール関数に基づくシミュレーションを完成する。その後、64細胞期の発現調節へ進み、運命決定までの遺伝子発現調節のシミュレーションを目指す。
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次年度使用額が生じた理由 |
当初予定していた学会参加を授業などの用務のため取りやめたため、次年度使用額が生じた。平成29年度に見つけた構成的活性型Rafによる調節の影響が他の遺伝子にも及ぶかどうかを調べることが、本研究の目的を達成するために必要となったので、その目的で平成30年度に物品費として使用する予定である。
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