遺伝子調節ネットワークの研究が進んでいるモデル生物であるカタユウレイボヤの胚を用いて、実験データに基づいた遺伝子発現のシミュレーションをおこなうことが本研究の具体的な目標である。 ホヤの32細胞期には15個の遺伝子が9種類の異なるパターンで特異的に発現を始める。昨年までに、ホヤの発生運命決定の遺伝子調節ネットワークのうち、32細胞期で発現する遺伝子の調節機構を数式であらわすことに成功した。しかしながら、そのうちのNodalに関しては、数式に基づく再現実験において、完全に再現が出来なかったので、その原因を探った。その結果、Fog(friend of gata;転写因子のコファクター)がかかわることが明らかとなり、それを含めた数式によって、32細胞期の発現が再現されること、上流因子の過剰発現やノックダウンによる攪乱をおこなうと数式による予想通りに発現パターンが変化することを明らかにした。昨年度までの結果と合わせて、32細胞期に発現を開始する遺伝子の調節機構が完全に数式で表現され、ホヤの32細胞期の遺伝子発現がそれ以前の遺伝子発現パターンに基づいて計算によって再現可能になった。32細胞期は外胚葉・中胚葉・内胚葉のそれぞれが決定される時期であり、ホヤの胚葉決定の遺伝子発現のダイナミクスが計算可能になったことを意味する。本成果は遺伝子調節ネットワークのダイナミクスと細胞の多様性の創出の間をつなぐ重要な成果となった。
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