研究課題/領域番号 |
17KT0022
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研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
小山 時隆 京都大学, 理学研究科, 准教授 (30324396)
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研究分担者 |
市川 正敏 京都大学, 理学研究科, 講師 (40403919)
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研究期間 (年度) |
2017-07-18 – 2020-03-31
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キーワード | 概日リズム / 生物発光 / 植物発生 |
研究実績の概要 |
本研究課題は、植物の発生・成長過程における自律的な時間秩序の形成原理を細胞レベル、組織レベル、個体レベルなどそれぞれの階層において明らかにするとともに、それぞれの階層をつなぎ統一的に理解するための理論を作ることを目的としている。前年度までに、生物発光レポーターを利用した発光イメージング/モニタリングが容易なウキクサを用いて、植物個体/器官の生物発光リズム測定実験および解析系の大枠を確立した。研究2年目の2018年度は、成長するウキクサでの概日リズム(時間)の親子の伝達様式、孤立した植物細胞リズムの性質、周期的な外部環境への同調様式の理論的な解析、植物体構造が著しく単純化したウキクサでの細胞概日リズムの観測を行った。成長するウキクサにおいて、親フロンドから生じる子フロンドの概日リズムの位相は親フロンドの概日リズムの位相および同期状態に大きな影響を受けることがわかった。また、形質転換シロイヌナズナを材料とし、直接的な細胞間相互作用のない孤立した細胞の概日リズム測定を行い、器官内での細胞概日リズムの性質の違いについて明らかにした。また、植物細胞のように外部周期的環境を直接感知し、同期できる概日振動子に対する同調可能な外部周期長の理論的な解析を進めた結果、植物の細胞概日リズムの明暗周期に対する同調様式が自律振動性と強い明暗同調性を両立させた系であることを示唆した。さらにウキクサの仲間でも根がなく維管束系が発達しないなど構造の単純化が進んでいるWolffiella属のウキクサを材料として、細胞概日リズムの解析を行った。その結果、自由継続周期が個体(フロンド)内の細胞間だけでなく、個体間でも大きくバラツクことを明らかにした。維管束等の器官内構造が概日リズム周期の安定性(あるいは同期状態)に関与する可能性を示唆した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
成長するウキクサの発光画像(動画)の取得が終わり、個体(フロンド)内での同期状態の変遷とフロンド間の位相の相違を、成長(親子系譜などを含めて)という時系列のなかで解析することが可能になった。本研究課題の根幹をなすステップであり、植物に見られる時間秩序形成過程の概要を捉えつつある。さらに、1日という時間秩序形成に深く関与する外部環境の日周変動への植物の概日リズムの同調様式をシンプルかつ汎用的なモデルに当てはめて理解することが可能なことを示したことで、理論的な解析を進めていく糸口をつかむことができた。それらの同調過程に実験的なアプローチを可能にするため、培養液組成の自動的交換装置の開発および、植物体に局所的な明暗環境を作る照射装置も開発した。これら、化学的あるいは物理的な刺激で、概日リズムの位相(角速度)を変化させうる系を発光測定系と組み合わせることで、質的、量的、空間的な制御が可能な同調刺激にたいする植物体の同調過程をオンタイムで測定できる観測系を確率した。今後はこれらの実験系同期に関する理論を組み合わせて研究を進めることで、本研究課題の目標を達成できると考えられる。当初の計画内容のうちレーザーマイクロダイセクションと蛍光タンパク利用については、具体的にすすめることができなかったが、上記のように本課題の根幹部分については大きな進展が見られたため、本研究は概ね順調に進展していると考えている。
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今後の研究の推進方策 |
前年度までに確立し、新たに展開した研究手法と蓄積したデータを使って、『植物の発生・成長過程における自律的な時間秩序の形成原理』への回答をまとめる段階になった。成長するウキクサで自律的に形成される概日振動子(細胞)の挙動の位相や同調レベルの基礎的なデータはすでに取得しており、植物のもつ様々な階層での概日リズムの挙動を理解するための法則およびメカニズムにアプローチする。その際に、Kuramotoモデルをベースに説明できる同期現象とより複雑なモデルを必要とする現象について明確化することも行う。さらに、概日振動子の時間情報をやり取りできる物質を介したモデルを構築するための、実験系および理論面での解析系を見出す。
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次年度使用額が生じた理由 |
2017年度に前倒し執行(170万円あまり)したため、2018年度はその分、備品等の使用額が減少した。また、2018年度から研究分担者(50万円)が新たに加わったため、全体の予算執行を抑え気味にした結果、次年度使用額が生じた。今回の次年度使用額を合わせた2019年度の執行予定額は、(前倒し執行前の)当初計画の予定額とほぼ同じであり、当初計画に従って研究遂行する予定である。
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