研究課題
体内には様々な器官が3次元に配置されている。また、それぞれの器官自体も3Dの構造を持っている。しかし、複雑な形態が個体差なく作られるしくみの理解は遅れている。3D形態ができあがっていくしくみの解明には、4D (3D+t)ライブイメージングが不可欠である。ライブイメージングには、サンプルが小さく全ての過程が急速に起こる系が適している。本研究では、オタマボヤ(Oikopleura dioica)をその系として、5時間の間に起こる消化管の形態形成とその構築原理を解明することを目的とする。この系は解析に値する充分な複雑さを持つが、他の動物の消化管形成に比してとても単純化された系である。全ての過程は5時間程度で完了する。内臓の形態形成は自己組織化の例であり、オタマボヤでは62個の細胞の塊から口から、咽頭、胃、腸、肛門にかけて500個ほどの細胞でできている高度に組織化された内臓ができあがる。消化管の形態を創成するしくみの素過程として、4つの現象に注目してそのしくみを探る。器官境界の形成、上皮極性の形成、管腔形成、管腔の体外への開口、である。全ての過程は5時間程度で完了するので、包括的な解析に最適な系である。精力的に4D(3D+t)ライブイメージングを行い、多面的かつ大量のデータの取得を行いつつある。データの取得は、微分干渉顕微鏡、デコンボルーション顕微鏡、共焦点顕微鏡を用いて行っている。また、体幹部の形態形成過程において核(H2B-mCherry)・細胞膜(PH-YFP)を光らせ、Z軸を含む蛍光タイムラプスビデオで撮影した。オタマボヤの幼生は幅が40 ミクロン程であり完全に透明なので、核を光らせZスタックを撮る場合、幼生の上焦点面から下焦点面までの像を得ることができる。
2: おおむね順調に進展している
生命維持において食事を必要とする多細胞動物は、食物を摂取する器官として口を持つ。一般的に動物の口は、外胚葉と内胚葉の接続によって形成されることが知られている。本年度は、ワカレオタマボヤを用いて口の形成過程を解析した。口の形作りの過程を微分干渉顕微鏡でタイムラプス撮影すると共に、細胞膜や細胞核を蛍光標識した上で個々の細胞の動きについてライブイメージングを行った。ワカレオタマボヤでは、将来的に口になる部分に前後軸に沿って並んでいる細胞が存在していた(oral plug)。このoral plugのうち背側最前方の二細胞が、体幹部を覆う表皮細胞に割り込んで体外に露出していた。そして、後方に位置する背腹二列の細胞が互いに解離して口の内側を形成することが分かった。また、oral plugのventral側の細胞に被さるようにして存在する細胞(lip precursor cell)の娘細胞同士(dorsal lip cellとventral lip cell)が、口の開口の際に背側と腹側に分配されていた。最後にこのoral plugとlip precursor cellが外胚葉と内胚葉どちらに由来するかを調べた。そのために、可変色蛍光タンパクであるnls-Kaedeを発現させた胚について、8細胞期に植物半球と動物半球のどちらかを赤い蛍光に変色させ、その娘細胞がどの細胞になるかを調べた。その結果、oral plugは植物半球由来の細胞、すなわち内胚葉由来の細胞であることが分かった。また、lip precursor cellが動物半球由来、すなわち外胚葉由来の細胞であること、更にその娘細胞が内胚葉由来の細胞とつながる様子が観察された。このような口の形成は、脊椎動物だけでなく無脊椎動物でも例がなく、口の形態形成に関する新たな例であるということができる。
31年度は、内臓の器官境界の形成に関して追求する。オタマボヤのゲノム配列からカドヘリン遺伝子のリストアップを既に行い、staged RNA-seq発現データベースのデータを参考にし、目的のステージで発現が認められるカドヘリン約20種類にターゲットを絞った。今後、これらのカドヘリンの発現をin situ hybridizationで確認し器官原基特異的に発現を開始するカドヘリンを特定する。そしてその発現をノックダウンし、器官境界の形成におけるカドヘリンの機能を解析する。また同時に、管腔(口・肛門・鰓穴)の体外への開口過程でのカドヘリンの発現にも注目し、その変遷をモニターする。また、これまでに得られた大量のタイムラプスビデオ(微分干渉顕微鏡、及び核・細胞膜を光らせZ軸を含む蛍光タイムラプスビデオ)の情報を詳細に解析し、オタマボヤにおける内臓形態形成を包括的に調べつくす。
30年度は研究室保有のイメージング(顕微鏡制御と画像取得)に必要なコンピュータが故障し、コンピュータのシステムが古かったためその修理と復旧に時間を要した。現在は、新しいOSのコンピュータを使ったイメージングシステムに置き換え、復旧している。31年度は、イメージングに関する部分の研究の遅れを取り戻し、順調に研究が進むものと考えている。分子生物学的研究は順調に進んでおり問題ない。
すべて 2019 2018 その他
すべて 国際共同研究 (1件) 雑誌論文 (5件) (うち国際共著 2件、 査読あり 5件、 オープンアクセス 2件) 学会発表 (4件) 備考 (1件)
Dev. Biol.
巻: 449 ページ: 52-61
10.1016/j.ydbio.2019.01.016
巻: 印刷中 ページ: 印刷中
10.1016/j.ydbio.2018.07.023
Nucleic Acids Res.
巻: 46 ページ: D718-D725
10.1093/nar/gkx1108
PLOS ONE
巻: 13 ページ: e0196500
10.1371/journal.pone.0196500
Genome Biology
巻: 19 ページ: 9
10.1186/s13059-018-1468-3
http://www.bio.sci.osaka-u.ac.jp/bio_web/lab_page/nishida/index.html