研究課題/領域番号 |
17KT0023
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研究機関 | 大阪大学 |
研究代表者 |
西田 宏記 大阪大学, 理学研究科, 教授 (60192689)
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研究分担者 |
小沼 健 大阪大学, 理学研究科, 助教 (30632103)
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研究期間 (年度) |
2017-07-18 – 2021-03-31
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キーワード | 器官形成 / 消化器官 / 形態形成 / 口形成 / オタマボヤ |
研究実績の概要 |
体内には様々な器官が3次元に配置されている。また、それぞれの器官自体も3Dの構造を持っている。しかし、複雑な形態が個体差なく作られるしくみの理解は遅れている。3D形態ができあがっていくしくみの解明には、4D (3D+t)ライブイメージングが不可欠である。ライブイメージングには、サンプルが小さく全ての過程が急速に起こる系が適している。本研究では、オタマボヤ(Oikopleura dioica)をその系として、5時間の間に起こる消化管の形態形成とその構築原理を解明することを目的とする。この系は解析に値する充分な複雑さを持つが、他の動物の消化管形成に比してとても単純化された系である。全ての過程は5時間程度で完了する。内臓の形態形成は自己組織化の例であり、オタマボヤでは62個の細胞の塊から口から、咽頭、胃、腸、肛門にかけて500個ほどの細胞でできている高度に組織化された内臓ができあがる。消化管の形態を創成するしくみの素過程として、4つの現象に注目してそのしくみを探る。器官境界の形成、上皮極性の形成、管腔形成、管腔の体外への開口、である。全ての過程は5時間程度で完了するので、包括的な解析に最適な系である。精力的に4D(3D+t)ライブイメージングを行い、多面的かつ大量のデータの取得を行った。データの取得は、微分干渉顕微鏡、デコンボルーション顕微鏡、共焦点顕微鏡を用いて行った。また、体幹部の形態形成過程において核(H2B-mCherry)・細胞膜(PH-YFP)を光らせ、Z軸を含む蛍光タイムラプスビデオで撮影した。オタマボヤの幼生は幅が40 ミクロン程であり完全に透明なので、核を光らせZスタックを撮る場合、幼生の上焦点面から下焦点面までの像を得ることができる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
管腔形成、管腔の体外への開口について、そのしくみを調べるために口の形成過程を観察した。一般的に動物の口は、外胚葉と内胚葉の接続によって形成されることが知られている。口の形作りの過程を微分干渉顕微鏡でタイムラプス撮影すると共に、細胞膜や細胞核を蛍光標識した上で個々の細胞の動きについてライブイメージングを行い追跡した。その結果を論文として投稿した。 口の形成には、口の開口部の形成、口腔の形成、および関連する感覚器官の発達のプロセスが含まれる。感覚器としては口腔周囲神経には20個のコローナル細胞と2個の背側感覚器細胞がある。口の開口に際しては、2つの唇前駆細胞(LPC)が孵化後約2時間後に背腹に細胞分裂し、2つの娘細胞の間にくさび状の裂け目を作り、背側唇細胞(DLC)と腹側唇細胞(VLC)となる。最終的には、DLCとVLCが剥離して背側唇と腹側唇に分離し、口が開くことがわかった。これは、細胞分裂そのものが形態形成に寄与しているという興味深い例である。その後、消化器官の管腔は前方から後方へと向かって進行する。次に、動物半球と植物半球の細胞を光変換可能な蛍光タンパク質を用いて標識したところ、外胚葉と内胚葉の境界が唇細胞とコローナル細胞の間に存在していることが示された。その結果、口腔内の上皮は背側領域では外皮由来であり、腹側領域では内皮由来である。背側感覚器官細胞を含むすべての口周辺の感覚細胞は内皮由来であり、外胚葉プラコードには由来しないことがわかった。これらの口の形成に関する観察は、この単純な脊索動物における分子レベルでのさらなる研究のための細胞基盤を提供するものであると考えられる。
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今後の研究の推進方策 |
孵化後1時間くらいで起こる器官境界の形成のしくみを調べるために、オタマボヤのゲノム配列からカドヘリン遺伝子のリストアップを既に行い、staged RNA-seq発現データベースのデータを参考にし、目的のステージで発現が認められるカドヘリン約19種類にターゲットを絞った。これらのcDNAをすべてクローニングし、これらのカドヘリンの発現をin situ hybridizationで確認した。しかし、染色の解像度がひくく発現領域の大まかな判定は着くが、器官形成期における発現をはっきりと各器官と対応づけることが難しかった。今後はin situ hybridizationを蛍光色素(TSA system)で検出していくことを計画している。また同時に、管腔(口・肛門・鰓穴)の体外への開口過程でのカドヘリンの発現にも注目し、その変遷をモニターする。さらに、できればその発現をノックダウンし、器官境界の形成におけるカドヘリンの機能を解析する。
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次年度使用額が生じた理由 |
19種のカドヘリンのクローニングが完了し、遺伝子発現を調べるためにin situ hybridizationを行ったが、条件設定に難航し研究計画が遅れた。これは、オタマボヤの幼生が全長で150ミクロンと小さく、各細胞の直径が5ミクロンくらいしかないせいで、BCIP/NBTによる発色反応では染色がにじみ、うまく遺伝子発現領域が高解像度で特定できないせいであると考えられる。今後は、in situ hybridizationを蛍光色素(TSA system)で検出し、共焦点顕微鏡で観察することを試みる。予備的結果では、後者の方法の方が圧倒的に解像度が高いことがわかっている。
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