研究課題/領域番号 |
17KT0024
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研究機関 | 神戸大学 |
研究代表者 |
森垣 憲一 神戸大学, バイオシグナル総合研究センター, 准教授 (10358179)
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研究分担者 |
林 文夫 神戸大学, 理学研究科, 名誉教授 (80093524)
山下 隼人 大阪大学, 基礎工学研究科, 助教 (10595440)
粟津 暁紀 広島大学, 理学研究科, 准教授 (00448234)
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研究期間 (年度) |
2017-07-18 – 2020-03-31
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キーワード | 光シグナル伝達 / ロドプシン / ラフト / 擬結晶 / GPCR |
研究実績の概要 |
本研究は、円板膜における2次元秩序構造を人工膜に再構成して形成原理と機能を構成的に解析する。これまでの研究から、ラフト領域(秩序液晶相:lo相)と非ラフト領域(無秩序液晶相:ld相)をパターン化した人工膜を開発し、Rhの脂質ラフトへの親和性をlo/ ld相への分配から定量的に評価することに成功した。この技術を発展させ、ラフト領域の脂質組成やRh濃度を調節することで、人工膜にRh超分子クラスターなどの2次元秩序構造を再構成する。平成30年度には、①パターン化人工膜作製、②パターン化人工膜への膜タンパク質再構成、③Rh超分子クラスターの形成、④膜内分子分布・凝集状態や機能をシミュレートする数理モデルを構築、に関する技術開発を行った。①パターン化人工膜作製では、ガラス基板に流動性脂質膜(100%生体脂質)と部分重合膜(生体脂質とポリマー脂質の混合膜)を持つパターン化膜を作製し、ラフト領域(lo相)および非ラフト領域(ld相)とを定量的に分配したラフトモデル人工膜を作製した。 ②パターン化人工膜への膜タンパク質再構成では、パターン化人工膜に、ロドプシン光受容体(Rh)、光情報伝達関連タンパク質(トランスデューシン(Gt))の再構成を行いラフト・非ラフト領域の分配を定量した。③Rh超分子クラスターの形成は、円板膜より再構成した膜を高速AFMで観察し、完全暗黒下でRhクラスター、Gt、Rh-Gt複合体の観察に成功した。④数理モデルの構築では、粗視化モデルでRhとラフト脂質、非ラフト脂質の挙動を再現してロドプシン周辺のロドプシン、ラフト脂質の数を定量し、クラスター形成を評価した。以上の研究成果により、円板膜におけるロドプシン光受容体の2次元秩序構造が光シグナル伝達に果たす役割について、知見を得ることができた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究は、円板膜における2次元秩序構造を人工膜に再構成して形成原理と機能を構成的に解析する。平成30年度には、①パターン化人工膜作製、②パターン化人工膜への膜タンパク質再構成、③Rh超分子クラスターの形成、④膜内分子分布・凝集状態や機能をシミュレートする数理モデルを構築、に関する基盤技術の開発を行うことができた。①パターン化人工膜の作製では、ラフト領域(lo相)および非ラフト領域(ld相)とを定量的に分配したラフトモデル人工膜を作製して、光シグナル伝達に関わる分子群のラフト親和性を定量した。②パターン化人工膜への膜タンパク質再構成では、パターン化人工膜に、ロドプシン光受容体(Rh)、光情報伝達関連タンパク質(トランスデューシン(Gt))を機能を保持した形で再構成する技術を開発した。③Rh超分子クラスターの形成では、Rhクラスター、Gt、Rh-Gt複合体を完全暗黒下で高速AFMで観察することに成功し、Rhクラスターに対するGtの結合をリアルタイムで観察した。④膜内分子分布・凝集状態や機能をシミュレートする数理モデルを構築では、粗視化モデルでRhとラフト脂質、非ラフト脂質の挙動を再現し、ロドプシン周辺のロドプシン、ラフト脂質の数を定量してクラスター形成を評価した。以上の結果は、視細胞円板膜の2次元秩序を人工膜に再構成し、1分子蛍光観察、高速AFM、および粗視化分子動力学シミュレーションで詳細に解析することで、自発的秩序形成メカニズムと機能的役割を分子レベルで理解するための重要な基盤となる。
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今後の研究の推進方策 |
平成31年度は、以下の検討を行うことで、円板膜における2次元秩序構造を人工膜に再構成して形成原理と機能を構成的に解析する技術を開発したい。 ①パターン化人工膜への膜タンパク質の再構成:2次元秩序構造形成にはRh二量体が重要であると考えられるため、導入条件(界面活性剤濃度、希釈率、攪拌、脂質組成など)を改善することで、Rhを二量体形成に必要な密度(およそ100分子/平方マイクロメートル以上)で再構成することを試みる。Rh拡散、二量体形成を観測して導入条件を最適化する。 ②Rh超分子クラスターの形成:超分子クラスターの動的形成過程、分子集合状態、二量体、オリゴマーとの平衡を、1分子蛍光観察および高速AFMを用いて詳細に観察する。 ③Rh超分子クラスターの機能解析:高速AFMを用いてRh超分子クラスターを暗中で観察しながらRh分子を光活性化し、Rh分子の構造と集合状態の変化を調べる。暗室中で、Rhのみ、Gt添加、光照射、GTP添加、の条件で分子解像度の観察像を得ることを目指す。 ④膜内分子分布・凝集状態や機能をシミュレートする数理モデルの構築:平成29年度に引き続き、粗視化モデルでRhとラフト脂質、非ラフト脂質の挙動を再現する。Rh 凝集状態(単量体~多量体)に応じてラフト、非ラフト脂質への親和性が変化する、Rh凝集体の解離定数が周辺の脂質組成によって影響されると仮定して、これらの寄与の重みを変えつつシミュレーションを行い、Rh超分子クラスター形成を考察する。
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次年度使用額が生じた理由 |
平成30年度は、高速AFM観察を完全暗黒下で行う暗室整備などのために実験量が若干制限され、一方、平成31年度には蛍光1分子観察、高速AFM観察、シミュレーションを統合するためにより多くの実験を必要と予想されるために、次年度使用額が生じました。
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