研究課題/領域番号 |
17KT0027
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
新里 宙也 東京大学, 大気海洋研究所, 准教授 (70524726)
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研究分担者 |
山下 洋 国立研究開発法人水産研究・教育機構, 西海区水産研究所, 研究員 (00583147)
將口 栄一 沖縄科学技術大学院大学, マリンゲノミックスユニット, 研究員 (90378563)
安岡 有理 国立研究開発法人理化学研究所, 生命医科学研究センター, 研究員 (70724954)
鈴木 豪 国立研究開発法人水産研究・教育機構, 西海区水産研究所, 主任研究員 (30533319)
座安 佑奈 沖縄科学技術大学院大学, マリンゲノミックスユニット, 研究員 (50746691)
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研究期間 (年度) |
2017-07-18 – 2020-03-31
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キーワード | サンゴ / 褐虫藻 / 共生 / ゲノム |
研究実績の概要 |
一つの生物は様々な生命体が複雑に絡み合って成立しており、あたかも一つの生物のように振る舞う生命体は、まとめて「ホロビオント」という言葉で形容されている。地球上で最も生物多様性豊かな環境の一つであるサンゴ礁は、サンゴ-褐虫藻共生体のホロビオントが生み出した賜である。しかし温暖化などの地球規模の環境変動により、サンゴと褐虫藻の共生関係の崩壊「白化現象」が頻発し、サンゴ礁が危機的な状況にある。サンゴ礁の消滅はサンゴの死のみにとどまらず、そこに生息する多様な生命の消滅も意味する。その一方で、サンゴと褐虫藻の共生メカニズムやその維持機構については、未だ多くが謎のままである。本研究ではサンゴと褐虫藻のゲノム解析や遺伝子機能解析、自然界で実際に起こっているサンゴと褐虫藻の共生を実験的に再現するシステムを結集・融合して、複雑なサンゴ“ホロビオント”構成原理の解明に取り組む。 当該年度には、サンゴの生活史で唯一褐虫藻が共生していない初期の幼生を用いて、遺伝的には近縁だがサンゴとの共生様式が異なる複数の褐虫藻株を幼生に感染させ、サンゴの遺伝子発現変動をRNA-Seqにより解析・比較することで、サンゴと褐虫藻の共生に重要な役割を果たしている遺伝子の特定を行った。本来共生する褐虫藻が感染したときにのみ、サンゴは糖やアミノ酸等の代謝を下げ、それらの輸送体の発現が上昇するなど、自然界で起こっているサンゴと褐虫藻の共生の分子メカニズムの一端を明らかにすることができた。 さらに、毎世代褐虫藻を環境中から獲得するミドリイシ属と近縁だが、親から褐虫藻を受け継ぐコモンサンゴ属サンゴから、サンゴの一斉産卵時に精子を採集して、ゲノムシークエンスを行い、現在ゲノムの解読を進めている。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
ミドリイシサンゴのゲノムから、褐虫藻との共生に関わる重要遺伝子の候補を特定することができた。現在この成果を国際誌に公表するように、準備を進めている。
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今後の研究の推進方策 |
サンゴの幼生への褐虫藻を感染させ、RNA-Seqによる遺伝子発現解析で見つかった、共生に重要な役割を果たしていると考えられている遺伝子について、モルフォリノオリゴを用いた遺伝子ノックダウンによる機能解析を試みる計画をしている。これらサンゴの遺伝子が、実際にどのように褐虫藻との共生に関わっているのか明らかにしたい。 近縁であるが褐虫藻との共生様式が異なるコモンサンゴ属のゲノムの再構築を完成させる。そしてミドリイシ属とコモンサンゴ属のゲノムを比較し、それぞれのゲノムに共通で見られる遺伝子や、ミドリイシもしくはコモンサンゴのみに見られる遺伝子に注目し、異なる共生様式を生みだすゲノム基盤を解明することを目指す。
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次年度使用額が生じた理由 |
サンゴの幼生への褐虫藻感染実験の結果から、当初予想していなかった興味深い結果が複数見つかった。そのための追加解析を行ったために、論文公表のための準備に時間がかかった。これらの結果をふまえ、興味深い遺伝子の機能解析を行う予定である。コモンサンゴのゲノム解読についても、シークエンスデータの追加を含め、質の高いゲノムの再構築に取り組む。
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