研究課題
【背景】我々の日常生活に溢れている皮革製品は、「クロムなめし」と「その他のもの」に分類される。生産コストが低く、輸入税率も格段に安いので、世界の皮革製品の80%以上がクロムなめしで作製されている。経済グローバル化に伴い、先進国が環境汚染を誘発するクロムなめしの作業工程を開発途上国に押しつける構図が新たなグローバル・イシューを産み出している。【目的】クロムなめし工場では、皮革製品の製造に大量の水が必要で、工場から高濃度のクロム等の有害元素を含む大量の廃液が流れ出ることによりと、工場内や周辺水域に甚大な環境汚染と健康被害を誘発することになる。本研究では、皮革製品を輸出しているアジアの開発途上国と、主要輸入国の日本に焦点をあて、途上国と先進国への両方向性アプローチを実施する。【研究成果】2013年の米国ブラックスミス研究所の報告において、世界で環境汚染が最も深刻な10地点として、アジアの開発途上国の皮革工場集積地域が選ばれた。本研究では、皮革工場集積地域周辺の排水路と、排水路が流れ込む河川に焦点をあて、108の地点で採水し、66元素濃度をICP-MSにて測定した。本調査により、皮革工場集積地域からの廃液が河川のクロム汚染の主たる原因になっている可能性を、より直接的に証明した。さらに、排水路の水に含まれるクロムには、3価クロムだけでなく、毒性の高い6価クロムも含まれていることを証明した。一方、ヒ素およびバリウムの濃度は、排水路および河川で、ほぼ同じレベルであった。これは、皮革工場集積地域からの廃液が、河川におけるヒ素およびバリウムの濃度に影響を与えている可能性は低いことを示している。
2: おおむね順調に進展している
本研究では、アジアの開発途上国の皮革工場集積地域を中心とする水質汚染について、現地で環境モニタリングを実施し、元素汚染の現状把握に成功している。ゆえに、本研究は、順調に進展していると評価できる。
今後も当初の計画通り、アジアの開発途上国の皮革工場集積地域に着目し、元素を標的とする環境モニタリングを進める。さらに、動物実験・細胞生物学実験および皮革工場労働者(ヒト)を対象とした疫学調査により、汚染物質の健康影響評価を推進し、浄化すべき汚染物質の特定を進める。
当初の予定では、非常勤研究員(ポスドク)を雇用する予定であったが、非常勤研究補助員を雇用することになったので、人件費・謝金等が少額ですんだ等の理由で、次年度使用(約190万円)が生じた。一方、当初の予想に反し、皮革工場の廃液に含まれる元素はクロムだけでなく、他の有害元素が含まれている可能性が明らかになった。研究の遂行上、この現象の本質を見極めることが不可欠であることから、皮革工場内を含めて、さらに詳細な環境モニタリングを実施することが必要となった。そこで、次年度使用の約190万円は、物品費:90万円、旅費:20万円、人件費:50万円、その他:30万円の支出を予定している。
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すべて 国際共同研究 (1件) 雑誌論文 (4件) (うち国際共著 1件、 査読あり 4件、 オープンアクセス 1件) 学会発表 (9件) (うち招待講演 1件) 備考 (2件)
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