研究課題/領域番号 |
17KT0034
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研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
池田 裕一 京都大学, 総合生存学館, 教授 (90610858)
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研究分担者 |
家富 洋 新潟大学, 自然科学系, 教授 (20168090)
水野 貴之 国立情報学研究所, 情報社会相関研究系, 准教授 (50467057)
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研究期間 (年度) |
2017-07-18 – 2020-03-31
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キーワード | サプライチェーンネットワーク / オーナーシップネットワーク / ネットワーク科学 / 国際租税回避 / 多重ネットワーク / コミュニティ解析 / 中心性指標 / 伝統産業ネットワーク |
研究実績の概要 |
本研究では,グローバル化の階層構造をビッグデータとネットワーク科学の手法で見える化し,ヒト・モノ・カネのグローバルな流れに潜むコミュニティの孤立性を表す指標を開発する。そのために,自由貿易を前提とした経済共同体構想を阻害する「コミュニティの孤立化」によりもたらされる「コミュニティ間格差」の実態を解明する。 (1)カネとモノについての世界データベースの完成: (a) 企業間の国際株式所有データ,(b) 企業間の国際製品サービス取引データ,(c) (a)のOwnerIDと(b)の企業IDの紐づけデータ,(d) 世界の上場企業の株価と出来高の日次推移データ,(e) 取引情報と株価を取得した企業の損益計算書のデータ,(f) 取引情報と株価を取得した企業の貸借対照表のデータ,(g) (b)の各企業の株主リスト(企業ID、企業名、持ち分比率),(h) (b)の各企業の株式保有リスト(企業ID、企業名、持ち分比率) (2)モノの流れの解析:S&Pデータを用いて,全世界約60万社からなる国際製品サービス取引ネットワークについてコミュニティ解析を行うとともに,モノの流れにおける流れ成分と回転成分の同定を行った。これらの成分の特徴に基づいて,経済成長との対応関係を検討中である。 (3)カネの流れの解析:国際株式所有ネットワークにおいて国際租税回避の拠点となる国と企業を同定するための中心性指標の定式化とアルゴリズムを提案した。この新しい中心性指標を用いて,Fortune500の多国籍企業グループの国際租税回避の特徴を抽出した。 (4)ヒトの流れの解析:苗字・国籍ビッグデータによる民族の空間的特徴の抽出と,人流ビッグデータによる民族のセグリゲーションの解析を行った。また,生産要素としてのヒトの移動については,途上国からの移民の移民先の国での同化について公表データを用いた解析を行った。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
H30年度の前期末までに,カネとモノについてのグローバルデータベースを完成できた。これとは別に並行して,昨年度の遅れを取り戻すために,データベース完成が見えてきた時点で,早めにビッグデータのネットワーク解析を開始した。この早期着手によって,(a)国際的な製品サービス取引ネットワークについて,コミュニティ解析と取引の流れ成分と回転成分の同定,(b)国際株式所有ネットワークについて,Fortune500の多国籍企業グループの国際租税回避の特徴抽出,(c)苗字・国籍ビッグデータによる民族の空間的特徴抽出,(d)人流ビッグデータによる民族のセグリゲーション解析,などによって,ヒト・モノ・カネのグローバルな流れを見える化する研究を計画通り実施することができた。 さらに,グルーバルビッグデータ解析の過程で,データの不完全性が顕著であることが明確になり,これに対処することが求められた。そのため,観測可能なローカルな集約量から,観測不可能なグローバルな状態量を推測する「データ再構成」という新しい概念の創出に至った。この「データ再構成」のアルゴリズムは,観測可能なローカルな集約量の制約条件のもとでの,エントロピー,尤度などの目的関数を最適化する。H30年度後期までに,凸最適化や粒子フィルターを使ってグローバルな状態量を推測できることを確認できた。今後,「データ再構成」問題の一般的な定式化を行って,凸最適化や粒子フィルターだけでなく,機械学習を用いた解法を検討することによって,データ科学の新しい展開に寄与することができる目途が得られた。
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今後の研究の推進方策 |
ビッグデータから見えるグローバル社会のコミュニティ構造と孤立化指標-持続可能性とヒト・モノ・カネのグローバルフロー-の具体的な研究を推進すると共に,研究成果をまとめるワークショップを開催する。 現在,グローバル化の進展した結果,さまざまな格差が拡大している。グローバル化 (統合化)と多様性 (分離)との間でどのように折り合いをつけるかが課題である。そこで,「コミュニティの孤立化」を表す「指標」を検討する。その際に,SDGの達成指標,貿易の循環指標(家富)を参考にしながら,機械学習をつかった指標の開発を検討する。最終成果として,EUとの東アジアの比較研究,東アジアを対象にしてエビデンスベースの政策提言を行う。 以下のスケジュール:(a)4月から具体的な研究を進めながらドラフト原稿を作成,(b)9月中旬までにドラフト原稿を提出,(c)9月24日と25日に新潟大学にてワークショップを実施,(d)12月末に改訂原稿を提出,(e)3月末までに全体整理をして脱稿(書籍原稿),に従って,具体的な研究を進めていく。 ワークショップは,第1部 モノの流れ:(a)国際的な製品サービス取引ネットワーク,(b)日本における製品サービス取引ネットワーク,(c)孤立化の例としての京都の伝統工芸産業,第2部 カネの流れ:(a)国際的な株式所有ネットワーク,(b)日本における株式所有ネットワーク,(c)国際的な付加価値ネットワーク,(d)デジタル経済における利益移転,第3部 ヒトの流れ:(a)民族分布のから国々の空間的な繋がり,(b)アセアンにおける移民同化,(c)シリア難民の社会セキュリティ,第4部 総括:孤立化指標,の構成で実施する。これら成果をもとに参加者が分担執筆する原稿(英語)をまとめて書籍として出版する。
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次年度使用額が生じた理由 |
今年度は,ヒトの流れについてのデータ購入が計画通りに進まなかった。 次年度は,モノの流れに関連して,マスメディアの報道データやtwitterなどのSNSデータを購入する計画である。また,ワークショップの参加者が分担執筆する原稿をまとめて書籍化する際には英語校閲費を行う。さらに,研究成果をアピールできるようwebページの内容を大幅に見直して更新する。
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備考 |
最近,これらのwebページの内容は更新されていない。今年度,研究成果をアピールできるように内容を大幅に見直して,魅力的なwebページとしたい。
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