研究課題/領域番号 |
17KT0044
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研究機関 | 早稲田大学 |
研究代表者 |
菅原 俊治 早稲田大学, 理工学術院, 教授 (70396133)
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研究期間 (年度) |
2017-07-18 – 2021-03-31
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キーワード | マルチエージェントシステム / 持続可能性 / 強化学習 / 分業 / 協調体制 / 交渉プロトコル / 巡回問題 |
研究実績の概要 |
情報通信・センサ等のデバイス・機械技術の発展により、実世界をモニタし人間の活動の補助、安全安心の実現をめざしたシステムが導入され始め、今後も多くの応用が期待される。しかし環境のモニタリングによる大量の情報とイベントに基づき、それを実時間で処理する必要がある。これには、多数の計算機や制御プログラムを連携・協調させる技術が重要になる。さらに、人間社会に融合したシステムには、故障とシステム更新を想定した頑健性と持続可能性を実現する技術が必須となる。 システムの自律的連携の学術的研究は、人工知能(AI)の分野では、ソフト・ハードウェアをエージェントとモデル化し、それらの分業と協調による効率化として提案されてきた。しかし、分業を自律的に創発させ、その最適化やチーム組織化をめざした研究、複数の構成要素からなる「人工物システム」の持続可能性を視野に入れた研究は見られない。特に、社会で継続的に機能させるために、システムの機能の停止や変動を最小限に抑えながら入替え・更新を実現する手法が重要と考えるが、ここでは分業の機能を活用してシステム持続可能性の向上を追求する。 本研究期間では、持続可能なシステムとするための前段階として、要求条件を破らない範囲でエージェントが自ら行動を抑制する手法を提案した。また、継続的運用に必要な定期的メンテナンスなどで抜けたエージェントの作業を補填することはできるが、その際に発生する一時的な効率低下を低減する手法を提案した。これらの2手法は、持続可能性を向上させるために、今後統合する。他方、予め領域分割を行って分業する手法においても、分割形状を整え、効率低下させない手法を提案した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
計画では本年度から来年度にかけて、(1) 変化への効率的適応、つまり故障などの突発的なチームの変化や環境の変化に柔軟に対応する手法を提案し、それを評価・確認すること、(2) 戦略的システム持続可能性の確保、としていた。(2)は、(1)と異なり、ハードウェア等の取替更新の時期は既知とできるため、急激な作業効率低下を防ぎながらの移行を意図している。 このために昨年度確認した「チーム構造の再構成による公平化と機能追求」の公平化を推進すると共に、行動と休止(充電等のため)のサイクル長を自律的に学習する手法を導入した。この発展として、要求条件を満たす範囲内で過度のエネルギー消費を抑えるために、エージェントが行動を自己評価し、要求を満たすと判断できれば停止か充電基地へ帰還をとる学習手法を提案した。 さらに、定期メンテナンスやソフトウェア・ハードウェアの取替・更新を想定した計画停止を、他のエージェントに作業を委託して作業を委譲する交渉プロトコルに追加した。これにより、一部のエージェント(ロボット)の停止による効率低下のギャップを縮小できた。また本研究は、上記のエネルギーを抑える学習とともに、不要なエージェントの停止(あるいは環境の変化に対する予備)を実現し、システムの持続性とエネルギー削減行動を向上させる予定である。 別のアプローチとして、公平な負荷とするように領域を自律的に分割・調整する手法を提案してきたが、この課題として個別のインタラクションで分割境界を決めるため、分割した形状が分断された形になり、さらに時間とともに細分化し効率が低下するという課題があった。ここでは、各エージェントが自らの担当領域の形状を把握しながらその形状を整えるとともに、効率面から不利となる領域を他のエージェントに委譲する手法も提案している。 なお本研究の成果について国際会議で招待講演を実施した。
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今後の研究の推進方策 |
今後は、研究計画にしたがって、意図的・非意図的変化への対応を進め、よりスムーズにシステム更新を実現するとともに、昨年度から新規に加えた課題についても研究を進め、マルチエージェントシステムにおける分業の発生とその仕組みと性質解明の研究をさらに進める。 具体的には、(1)省エネルギーを主目的とした巡回問題と計画停止のためのプロトコルの統合により、定常的に不要なエージェントの行動を抑え、取替更新時に代理役を果たす手法の推進、(2) 形状分割手法において環境の変化や障害物の影響などの調査、さらに通信制限のある環境への適用を進める。 すでに着手しているが深層学習を利用した協調・分業行動についての研究も推進する予定である。また、研究の進行に合わせ、国際・国内会議・論文誌への投稿・発表を進める。
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次年度使用額が生じた理由 |
物品の購入が計画よりやや低かったため。なお、本予算は、次年度にて論文掲載費の一部として使用する予定である。
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