研究課題/領域番号 |
17KT0045
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研究機関 | 北海道大学 |
研究代表者 |
松野 啓太 北海道大学, 獣医学研究院, 講師 (40753306)
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研究分担者 |
山崎 剛士 北海道大学, 獣医学研究院, 助教 (70709881)
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研究期間 (年度) |
2017-07-18 – 2021-03-31
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キーワード | アルボウイルス / 宿主応答 |
研究実績の概要 |
平成30年度には、引き続きSFTSウイルスのリバースジェネティクス系樹立を試みた。ウイルスRNAの発現・複製効率向上を期待して、SFTSにより死亡したチーターから分離したウイルス株の遺伝子を用いて、リボザイムの組み合わせを変えたベクターを構築した。ウイルスタンパク質強制発現系については、リフトバレー熱ウイルスおよびSFTSウイルスだけではなく、類縁ウイルスのタンパク質発現系を準備し、より精度の高い比較解析ができるように準備を整えた。リバースジェネティクス系の一部のプラスミドを用いて、ウイルスRNAの複製・転写効率を解析するためのミニゲノムアッセイ系を樹立したが、ハムスター由来培養細胞では成功したが、ヒト由来培養細胞では成功しなかった。複数の細胞種で比較検討後、リバースジェネティクスによるSFTSウイルスの作成を行う。また、SFTSウイルスのリバースジェネティクス系確立のために、ウイルス増殖過程におけるウイルスRNAの蘇生解析を実施した結果、各RNA分節およびその転写・複製産物の比が高度に制御されている可能性を見出した。この知見をリバースジェネティクス系確立に生かしていく。 トランスクリプトーム・インタラクトーム解析については、平成29年度にSFTSウイルスおよび類縁のダニ媒介性フレボウイルスと、哺乳動物細胞との組み合わせについて実施したので、平成30年度には哺乳動物由来培養細胞、マダニ由来培養細胞、蚊由来培養細胞、およびサシチョウバエ由来培養細胞に、リフトバレー熱ウイルス、サシチョウバエ媒介性フレボウイルス、SFTSウイルス、およびマダニ由来Mukawaウイルスを感染させ、継時的にtotal RNAを回収した。現在、これらのRNAを用いてトランスクリプトーム解析を行っており、得られた結果を元にネットワーク解析を実施する。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
平成30年度の研究実施計画で計画していたリバースジェネティクス系確立、トランスクリプトーム解析、インタラクトーム解析について、それぞれ着実に実施している。ただしリバースジェネティクス系については、当初計画に盛り込んでいたように、確立に時間がかかったために、一部で野外分離株を用いて代替した。また、トランスクリプトーム解析については、年度中にデータの取得はできなかったものの、サンプル回収は完了しているため、平成31年度に解析を残すのみとなっている。インタラクトーム解析については、当初に予定していたウイルスタンパク質ー宿主タンパク質の組み合わせではなく、ウイルスタンパク質ー宿主RNAの結合を解析した。これは、リバースジェネティクス系確立の基礎データ取得も兼ねるためである。また、タンパク質ータンパク質相互作用についての解析はある程度先行研究があるが、タンパク質ーRNA相互作用の解析の情報が乏しく、ウイルスタンパク質ー宿主RNAの相互作用についての新たな知見が得られた。今後はここで樹立した実験系を用いてタンパク質ータンパク質相互作用についても解析を行い、タンパク質・核酸の双方からインタラクトーム解析を実施する。そのため、総合的に自己評価を行ったところ、本研究はおおむね順調に進展しているものと判断した。
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今後の研究の推進方策 |
コアネットワークの抽出と各宿主因子の機能解析を行う。脊椎動物・節足動物間でトランスクリプトーム・インタラクトーム解析を行い、ウイルス感染応答に対する遺伝子ネットワークを解析する。各宿主のネットワークを、その形状や統計量(例えば、字数分布、次数相関、クラスター係数、中心性)により比較し、共通するクラスター(=コアネットワーク)を抽出し、ウイルス感染に関与する宿主因子のうち、異種動物で共通するコアネットワークとする。コアネットワークは、ウイルス感染に関与する宿主因子のうち、脊椎動物・節足動物間、あるいは節足動物(蚊・マダニ)間で共通する因子から成るネットワークであり、ネットワーク構造が相同性を保つと予測される。両動物種に共通する因子を単独で抽出すると、細胞骨格関連因子など高度に保存された因子のみが抽出されてしまうため、複数の因子の機能的関連で決定されるネ ットワークを宿主因子群として抽出する。コアネットワークを形成する宿主因子群の中で、その機能が未報告の分子については、機能推定の結果に基づいて変異体や欠損体を作製するなどして、宿主細胞中での機能 を明らかにする。特に、節足動物の因子については機能が分かっていないものが多いと推測される。ここまでの計画において、コアネットワークの抽出が不可能であった場合、それぞれの動物種からcDNAライブラリを作製し、ライブラリ導入細胞におけるウイルス増殖の変化をスクリーニングする。その結果をネットワーク 解析に導入することによって情報量を増やし、コアネットワークの抽出を再度試みる。スクリーニングには蛍光タンパク質あるいはルシフェラーゼをレポーターとして持つ組換えウイルスを用いる。
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次年度使用額が生じた理由 |
RNA解析用のプローブの納品が遅れたため。
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