研究課題/領域番号 |
17KT0049
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
道上 達男 東京大学, 大学院総合文化研究科, 教授 (10282724)
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研究分担者 |
越智 陽城 山形大学, 医学部, 准教授 (00505787)
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研究期間 (年度) |
2017-07-18 – 2020-03-31
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キーワード | 癌ドライバー遺伝子 / ネッタイツメガエル / CRISPR-Cas9 / 癌形成 |
研究実績の概要 |
発癌の分子機構はこれまで多くの研究が行われてきたが、近年の研究から、癌形成は単一の癌抑制遺伝子の変異のみで引き起こされるのではなく、複数の遺伝子変異の蓄積によって生じるといういわゆるマルチヒット仮説が提唱されている。ただ、どの遺伝子変異の組み合わせによって癌が悪性化するかについては、大腸癌におけるAPC・P53、k-ras、Smad4.1といったものが知られているものの、他にも多くの未同定の組合せが残されていることが想像される。このような癌ドライバーのセットを多数同定できれば、癌の未発症状態を知ることができ、疾病予測の実現につながることが期待できる。そこで本研究では、一度に多数の個体を検証できるネッタイツメガエルをモデル生物に用い、CRISPR-Cas9の実験系を用いて既知の癌関連遺伝子を同時に複数変異導入することで、癌形成に関わる遺伝子の新しい組合せを網羅的に見出すことを実験目的としている。まず、変異導入により癌形成が予想される癌ドライバー遺伝子のうち24遺伝子についてgRNAを設計・作成した。このうち、まずはAPC・P53、k-ras、Smad4.1に対するgRNAをCas9タンパク質とともにネッタイツメガエルの2細胞胚に微量注入して発生を進め、腫瘍化個体をスクリーニングすることを進めている。これまでに、腫瘍化個体がいくつか得られ、さらにその個体から得たゲノムDNAをシーケンスしたところ、一部の遺伝子について実際に変異導入されていることが明らかとなった。今後はこのスクリーニングを順次進めるとともに、20種のgRNAを加えたインジェクションと腫瘍化個体スクリーニングを行う。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
本年度は癌ドライバー遺伝子に対するgRNAカクテルのインジェクションを行い、2週ほど発生を進めた初期幼生について腫瘍化個体をスクリーニングすることを進めた。当初は20種類程度のカクテルを予定しており、実際にgRNAの作成は完了しているが、30年度は確実に腫瘍形成個体を得るため、apc, p53,kras,smad4.1の4種のgRNAを混合したカクテルをインジェクションした。この際、色素形成に関わるチロシナーゼ遺伝子に対するgRNAを加え、注入・遺伝子改変実験に対するコントロールとした。まず、加えるgRNAの種類を増やした際の変異導入効率を、チロシナーゼ遺伝子を指標にして測定したところ、予想通り加えるgRNAの種類の増加に依存して変異効率が減少した。ただ、5種類混合時でも約15パーセントの変異効率が認められたため、カクテルインジェクションは有効であると判断した。実際これまでのスクリーニングにより、腫瘍を持つ個体を得ることに成功している。また、これらの個体からゲノムDNAを抽出して遺伝子欠失の有無を検証したところ、krasの変異が実際に入ってることが確認された。ただ、現在のところ4(または5)遺伝子全てに変異が入った個体を見出すには至っていない。
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今後の研究の推進方策 |
進捗が若干遅れ気味であるが、平成31年度は以下の内容について研究を行う予定である。(1)昨年度から行っている、 既知の癌ドライバー遺伝子に対する5種類のgRNAからなるカクテルの微量注入、胚の培養、腫瘍化個体スクリーニングを続ける。この解析によって、腫瘍化がどの程度の頻度で生じるか、その際にどの遺伝子に変異が入っているかを調べていくことによって、カクテルインジェクションの有効性に関する定量的なデータを取得する。(2)また、20カクテルのインジェクションと腫瘍化個体のスクリーニングを大規模に進める予定である。(3)摘出した腫瘍、あるいは腫瘍をもつ個体そのものからPCRを行う際、バーコードを入れたプライマーを用いることで、腫瘍(あるいは個体)ごとの識別ができるようにした上で、遺伝子欠損の解析については、各増幅断片を一つに混合したサンプルから同時にシーケンスを行い、各組織の遺伝子変異状況を一度に調べることができるかどうかを検証する。この手法は、適宜(2)による大規模スクリーニングが進行する過程で適用し、本課題で提案したカクテルgRNA注入、腫瘍化個体スクリーニング、遺伝子欠損解析の一連の流れを確定させたい。今年度は課題の最終年度でもあるため、以上3つの課題の遂行をより推進するため、状況に応じて研究補助員の雇用も視野に入れる。
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次年度使用額が生じた理由 |
平成30年度は大規模に実験を遂行し、物品費を多く使用した。ただ、既存のgRNAなどを使用することが出来たこと、研究進捗の若干の遅れにより次世代シーケンス解析などを行わなかったため、予定よりも残額が生じた。今年度はかなり大規模に腫瘍化個体スクリーニングを展開することを予定しており、物品費がかなり多く必要であると見込まれる。
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