発癌の分子機構についてはこれまで多くの研究が行われてきたが、近年の研究の結果から腫瘍形成は単一の癌抑制遺伝子の変異ではなく複数の遺伝子変異の蓄積によりその確率が大きく上昇するという、いわゆるマルチヒット仮説が提唱されている。例えば、大腸癌においてはAPC・P53・k-ras・Smad4.1以上4つの変異が時間とともに蓄積し、これが腫瘍の悪性化を引き起こすとされている。しかし、このような癌ドライバー遺伝子セットは未同定のものがまだ多く残されていると考えられる。癌ドライバー遺伝子セットを多数同定することができれば、逆に癌の未発症状態が把握でき、疾病予測にもつながることが期待できる。そこで本研究では、一度に多数の腫瘍形成個体をスクリーニングできるネッタイツメガエルをモデル生物に用い、新規癌ドライバー遺伝子セットを網羅的に見出すことを実験目的とした。これまで、最大5種のgRNAを同時導入して発生させた2週幼生の外形観察による腫瘍形成個体スクリーニング系を確立し、少なくとも4遺伝子の変異導入効率は6割以上となっており、少ないながらも腫瘍形成個体が観察されている。更に、NBPRにおけるネッタイツメガエルの大量飼育の中で低頻度ながら見出される腫瘍形成個体における腫瘍部と非腫瘍部、更には非腫瘍個体からもRNAを抽出し、腫瘍個体腫瘍部特異的に変動する遺伝子発現をRNA-seq法を用いて網羅的に解析した。その結果、新たなドライバー遺伝子の候補が見出され、これらについてもgRNAの導入により腫瘍形成個体が得られるかどうか、補助期間終了後も引き続き検討していく。
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