研究課題/領域番号 |
17KT0052
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研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
金子 周司 京都大学, 薬学研究科, 教授 (60177516)
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研究期間 (年度) |
2017-07-18 – 2020-03-31
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キーワード | 有害事象 / FAERS / レセプト / 電子カルテ |
研究実績の概要 |
血液内科領域で用いられる抗悪性腫瘍薬のうち、特にボルテゾミブは末梢ニューロパチーを高頻度に起こすことが知られている。この末梢ニューロパチーの発生を軽減する併用薬を有害事象データベースの統計学的解析から見出した。ボルテゾミブが引き起こす末梢ニューロパチーを軽減する併用薬は有害事象データベースのみならず、レセプトデータベースを用いても検出することができた。本年度は、その候補薬物について実験動物を用いてin vivoおよびinvitroで実証実験を行った。ボルテゾミブ投与による遅延性の痛覚過敏モデルを作成した上で、候補薬物の併用あるいは病態形成後の後投与の効果を検討したところ、全身投与ではいずれの投与タイミングでも軽減作用は確認されなかったが、脊髄くも膜下腔内投与によって部分的に改善作用が見られることを見出した。続いて、in vitro初代培養細胞を用いて分子メカニズムの解析を行った。ボルテゾミブはnMオーダーの低濃度において後根神経節細胞の生存や突起伸長には影響を与えなかったが、シュワン細胞の脱分化を促進し、マクロファージあるいはミクログリアの活性化と炎症サイトカイン産生の増加を来すことを見出した。しかし候補薬物の併用はこれらを改善しなかったことから、作用メカニズムについては後根神経節細胞に立ち返って再検討を行っているところである。また、タキサン系やプラチナ系の抗がん剤が引き起こす末梢ニューロパチーについては有害事象データベースおよびレセプトデータベースから異なる候補併用薬を見出すことに成功した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究のテーマは患者の医療情報である有害事象セルフレポートやレセプト請求データベースから治療的に意味のある薬物間相互作用を統計学的に発見し、実証することである。末梢神経障害は痛みや感覚変調などの自覚的症状が主体であり、病名からの類推が困難である挑戦的なテーマであったが、臨床で記述される病名の解釈と統計学的なバイアスの排除によって、それが可能であることを立証した。さらに本研究では実験動物を用いた実証実験において有効性を確認しており、その分子メカニズムを探ることによって、まったく新しい末梢神経障害治療薬の開発に繋がることが期待できる。
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今後の研究の推進方策 |
ボルテゾミブが引き起こす末梢ニューロパチーについては、有害事象データベースのみならず、レセプトデータベースを用いても検出が可能であること、また、それを軽減する候補併用薬も同様に有効性が確認されることから、臨床における有効性は確実視される。最終年度となる2019年度には末梢ニューロパチーのもうひとつの表現型である感覚鈍磨に注力して有効性と作用メカニズムを解明する予定である。また、タキサン系やプラチナ系の抗がん剤が引き起こす末梢ニューロパチーについては有害事象データベースおよびレセプトデータベースから異なる候補薬物が見出されており、それらについて実証実験を作用メカニズムの解明を行っていく予定である。
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次年度使用額が生じた理由 |
次年度使用額が生じた理由は、分子メカニズム同定のための行う予定であったRNAシーケンシングが、標的細胞がまだ明らかでないことから次年度に延期したためである。
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