腸内細菌叢のバランスに異常をきたすと、炎症性腸疾患や大腸癌などの消化器疾患に加えて、アレルギーや自己免疫性疾患、さらには精神性疾患や生活習慣病といった全身性の疾患が誘導されることが示唆されている。このような腸内細菌のバランス失調は『ディバイオーシス(dysbiosis)』と呼ばれる。ディスバイオーシスは各種疾患の発症に関わる鍵因子であると想定されているが、その病態メカニズムには不明な点が多い。様々な遺伝的要因によりバリアの低下や軽度な炎症が起こることでディスバイオーシスが誘導され、その結果リーキーガットが誘導され、炎症スパイラルが加速すると考えられる。しかしながら、実際にどのような腸内環境の変化を経て、このスパイラルが形成されていくのかについてはほとんど情報がない。そこで本研究では、リーキーガット症状を呈する遺伝子組み換えマウスを用いて、腸内細菌叢、腸内代謝物、免疫細胞の動態を経時的に観察する。本年度は昨年度に引き続き本遺伝子組み換えマウスにリーキーガットを誘導した際に認められた神経症状の解析を行った。タモキシフェン投与後に後肢を引きずる個体が観察され、協調運動障害、歩行障害、後肢の固縮、脊椎後湾など臨床スコアの悪化が認められた。また、梁歩行試験における踏み外し回数も有意に悪化した。本マウスでは自己抗体の産生が認められたことから、リーキーガットが腸管免疫の活性化により、自己免疫性の神経変性疾患を誘導したと考えられた。このようにリーキガット誘導性の神経変性疾患の解明に資する新たな病態モデルを構築することができた。
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