研究課題/領域番号 |
17KT0067
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研究機関 | 弘前大学 |
研究代表者 |
小林 史尚 弘前大学, 理工学研究科, 教授 (60293370)
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研究分担者 |
佐野 輝男 弘前大学, 農学生命科学部, 教授 (30142699)
島田 照久 弘前大学, 理工学研究科, 准教授 (30374896)
當房 豊 国立極地研究所, 研究教育系, 助教 (60572766)
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研究期間 (年度) |
2017-07-18 – 2021-03-31
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キーワード | 大気バイオエアロゾル / リンゴ感染症病原菌 / 津軽半島 |
研究実績の概要 |
研究代表者の小林(環境生物工学)、分担者の當房(大気物理化学)、連携研究者の牧(バイオエアロゾル学)、岩坂(大気物理学)は、以前から大気バイオエアロゾル(大気浮遊微生物)の研究をともに実施しており、代表者が執筆した共著論文において2008年度日本エアロゾル学会論文賞を受賞している。黄砂粒子と挙動をともにする黄砂バイオエアロゾルの研究ばかりでなく、南極上空のバイオエアロゾル測定など多岐にわたって大気バイオエアロゾルの研究を実施してきた。大気バイオエアロゾルは、沈着地域においてヒトを含む動植物に多大な影響を及ぼすことが報告されている。研究代表者らの所属機関、弘前大学のある津軽半島地域(青森県)において、リンゴは地域に特有な最も重要な農資源である。日本においても、特に東アジアを対象とした重要な輸出農作物の一つである。平成28年6月頃、津軽半島地域において、胞子を形成する糸状菌が原因のリンゴ黒星病の感染被害が報告され、感染症原因菌の大気を介した拡散が問題となっている。 本研究では、これまで開発してきた観測技術を用いて、弘前大学内リンゴ農園の大気バイオエアロゾルを採集・生物分析し、分担者の佐野(植物病理学)とともに、リンゴ感染症原因菌の探索と濃度を測定した。さらに、分担者の島田(気象学)とともに風向・風速の気象シミュレーションから拡散する地域を予測した。リンゴ感染症の拡大の防止や農薬散布の適時化と軽減のために、大気バイオエアロゾル学、リンゴ病理学、気象学、大気物理化学(氷晶活性:霜沈着)などの研究者が一同に会して、感染症原因菌の観測と拡散地域予測を実施・検討した。本研究のアウトプットは、津軽半島地域特有の農資源リンゴの機能性活用するための社会システム研究およびリンゴ栽培等個性豊かな津軽半島地域社会形成を支える技術基盤開発である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
令和1年度は、弘前大学のリンゴ農園内の大気バイオエアロゾル観測を、2019年9月1日から積雪によって観測が難しくなる12月15日まで実施した。観測項目は、次世代シークエンサーによるメタゲノム解析のためのメンブレンフィルターによる採取、糸状菌濃度を自家蛍光量によって計測できる微生物センサ(令和1年度備品にて購入)、大気中の鉱物粒子濃度を流径別に測定できるOPC(Optical Particle Counter)を用いて実施した。上記3種の分析結果と風向、風量、降雨量などの気象条件を比較検討し、降雨後に黒星病原因菌濃度が増加することがわかった。降雨によって葉の表面で増殖した黒星病原因菌が地面に落ちて、地面の水分の蒸発と同時に舞い上がることがわかった。黒星病原因菌の大気濃度は、風向、風量にはあまり関係ないことがわかった。さらに、NOAA HISPRIT MODELを用いた後方流跡線解析により、これらの黒星病原因菌の拡散輸送先を推定することができた。 令和1年度は、観測の開始が装置類の準備に少し時間がかかったため、黒星病が蔓延する春先(3月から6月ごろ)の観測が実施できなかった。令和1年度の9月から1月(令和2年)の観測に成功し、種々知見が得られたことから、令和2年度の3月から春先にかかる黒星病の発生時期の観測が実施可能であり、重要・不可欠であることわかった。さらに、令和1年度は降雨量が少なかったことと、平成30年度の黒星病大発生によって令和1年度に農薬が大量に散布されたことにより、平成30年度よりも令和1年度の方が黒星病の発生が少なく、令和1年度は黒星病拡散の研究として適さなかったといえる。本研究観測を令和2年度も継続することによって、黒星病発生・感染に必要かつ重要な、春先の黒星病原因菌の大気濃度が測定でき、その大気拡散輸送地域などの予測ができる。
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今後の研究の推進方策 |
大気バイオエアロゾルは、沈着地域においてヒトを含む動植物に多大な影響を及ぼすことが報告されている。研究代表者らの所属機関、弘前大学のある津軽半島地域(青森県)において、リンゴは地域に特有な最も重要な農資源である。日本においても、特に東アジアを対象とした重要な輸出農作物の一つである。平成28年6月頃、津軽半島地域において、胞子を形成する糸状菌が原因のリンゴ黒星病の感染被害が報告され、感染症原因菌の大気を介した拡散が問題となっている。そこで、大気バイオエアロゾルを採集・生物分析し、分担者の佐野(植物病理学)とともにリンゴ感染症原因菌の探索と濃度を測定する。さらに、分担者の島田(気象学)とともに風向・風速の気象シミュレーションから拡散する地域を予測する。リンゴ感染症の拡大の防止や農薬散布の適時化と軽減のために、大気バイオエアロゾル学、リンゴ病理学、気象学、大気物理化学(氷晶活性:霜沈着)などの研究者が一同に会して、感染症原因菌の観測と拡散地域予測を実施・検討する。本研究のアウトプットは、津軽半島地域特有の農資源リンゴの機能性活用するための社会システム研究およびリンゴ栽培等個性豊かな津軽半島地域社会形成を支える技術基盤開発である。 4年目である令和2年度は、令和1年度に実施できなかった、最もリンゴ感染症菌が越冬し、舞い上がる春先(3月から6月)のサンプリングを実施する。サンプリングされたメンブレンフィルターのメタゲノム解析や気象条件データ解析から(これまでの研究成果)、舞い上がりには降雨が関係すると考えられるので、降雨(特に梅雨時期)との関係について重点的に検討する。さらに後方流跡線などにより、観測された黒星病原因の拡散予測を実施する。
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次年度使用額が生じた理由 |
本研究は、津軽半島の主要農作物であるリンゴの感染症大気拡散計測を目的として、リンゴ農園における大気バイオエアロゾルサンプリング・生物分析を実施した。2018年に大流行したリンゴ黒星病原因菌は、胞子の状態で越冬し、春先の雪解けとともに舞い上がることがわかってきたが、2019年は量が少なく黒星病もあまり発生しなかったので、研究観測を延長し、2020年の4月以降のデータが必要・不可欠となったためである。具体的な使用計画としては、メンブレンフィルターなどの消耗品、メタゲノム解析委託費用、エアーポンプ購入などがあげられる。
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