研究課題/領域番号 |
17KT0068
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研究機関 | 筑波大学 |
研究代表者 |
廣田 充 筑波大学, 生命環境系, 准教授 (90391151)
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研究分担者 |
井田 秀行 信州大学, 学術研究院教育学系, 准教授 (70324217)
藤嶽 暢英 神戸大学, 農学研究科, 教授 (50243332)
辻村 真貴 筑波大学, 生命環境系, 教授 (10273301)
大塚 俊之 岐阜大学, 流域圏科学研究センター, 教授 (90272351)
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研究期間 (年度) |
2017-07-18 – 2020-03-31
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キーワード | 環境調和型農林 / 農資源 / 茅場 / 茅葺き屋根 / 持続的管理 / 生態系サービス |
研究実績の概要 |
茅場が有する様々な生態系機能の多面的評価を進めるべく、初年度に研究対象地に選んだ長野県小谷村千国牧ノ茅場およ小谷村に残存する茅葺き家屋を対象として、1)茅場の生物多様性(主に植物と土壌微生物の群集構造)、2)茅場の炭素循環、3)茅場の窒素循環、および4)カヤ利用に関する伝統知の継承に関する計4項目の調査を行った。1)に関しては、主に茅場植生の植物バイオマスと種数の季節変化および空間変化を調べた。2)に関しては、表層土壌の有機物の物理化学性を中心に質的評価を行った。3)に関しては、土壌表層における窒素無機化速度の広域調査を行った。4)に関しては、日本茅葺き文化協会のワークショップに参加し、茅葺き職人を中心に茅葺き技術や茅場管理に興味のある方に向けて講演を行ったほか、茅場利用と茅葺き技術の有用性を紹介するためのフリーペーパー第2号を発刊した。 調査の結果、牧ノ入茅場は、比較的出現種数が少なくオオヒゲナガカリヤスモドキ、カリヤス、ススキ等のイネ科草本が優占する草原と、そこにハギなどの広葉草本が混在する草原が林道沿いや撹乱を受けやすい場所に点在することが明らかとなった。また、種構成によってバイオマスが大きく異なっていた。土壌有機物に関しては、ハギ混在地域は礫が多く密に詰まった貧栄養土壌、ススキ優占地域は交換性Mg及びCaが多い土壌、カリヤス優占地域はこれらのすべての特徴の中間に位置していることが明らかとなった。これらの結果は、土壌の土壌浸食といった土壌の動きによって、土壌の質が変化しその影響を受けて茅場の植生が不均一になりつつあることを示唆している。 ワークショップでの講演やフリーペーパー発刊を通じて、違う形で茅場や茅葺き屋根に関わる方々との交流が盛んになりつつある。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
調査項目によっては、予想以上に進展しているものがある一方で、やや遅れているものもあるから。前者には、茅場の植生構造の把握と茅場土壌の質的評価を挙げることができる。特に、土壌の質的評価はかなり進んでいると評価できる。後者には、茅場の水循環および茅場管理が茅場の水循環に及ぼす影響の評価が挙げられる。また当初は想定していなかった新たな研究、茅葺きに使用される茅の分解に関わる菌類群集の機能評価にも着手しており、茅葺き屋根材から比較的珍しい菌を発見するなど、新たな方向性の研究も展開しつつある。これらを統合して、現時点ではおおむね順調に進展していると判断した。
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今後の研究の推進方策 |
最終年度にあたるため、これまでの2年間で不足気味、あるいは遅れ気味の項目に重点を置きつつ、古くて新しい農資源である茅の価値の再認識と茅場の持続的管理につながるような研究成果の発信を重点項目(以下の7項目)として進めていく。 1)対象茅場の植生と土壌特性の関係解明、2)対象茅場の純一次生産量を中心とした炭素循環の推定、3)対象茅場における土壌窒素無機化速度を中心として土壌圏における窒素循環の推定、4)茅の強度に関わる質的評価、5)茅分解に関わる菌類群集の機能評価、6)茅場の水循環および茅場管理が茅場の水循環に及ぼす影響の評価、7)フリーペーパーを利用した研究成果の発信 最後に、本研究の総括として個々の研究成果を学術論文として公表していく一方、専門的な知識を揺する研究者以外にも伝わるような研究成果報告会を開催する予定である。
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次年度使用額が生じた理由 |
研究計画を変更して2年目に行う内容を3年目に行うことにしたことと、研究結果が出るタイミングと成果を取り纏めて公表するタイミングがずれているために、次年度使用額が生じた。最終年度は、当初は2年目に行うことを考えていた茅の化学的分析による質的評価を行う。さらに、研究成果を取り纏めて公表していく予定であり、次年度使用額は主にこれら2つに使用していく予定である。
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