研究課題/領域番号 |
17KT0071
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
遠藤 秀紀 東京大学, 総合研究博物館, 教授 (30249908)
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研究分担者 |
佐々木 剛 東京農業大学, 農学部, 教授 (00581844)
池谷 和信 国立民族学博物館, 人類文明誌研究部, 教授 (10211723)
佐々木 基樹 帯広畜産大学, 畜産学部, 教授 (50332482)
押田 龍夫 帯広畜産大学, 畜産学部, 教授 (50374765)
園江 満 日本大学, 生物資源科学部, 講師 (90646184)
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研究期間 (年度) |
2017-07-18 – 2020-03-31
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キーワード | 畜産学 / 動物 / 民族学 / 家畜 / 学融合 / 育種 / 飼育 / 人類学 |
研究実績の概要 |
伝統的品種の消滅は途上国に生じ続けている文化的破壊の一つと言える。背景として、家畜に対する合理主義・経済性追求の高まりが指摘される。そこで、低生産性と批判される家畜品種・形質を取り上げ、「経済性に劣るとされる家畜・品種集団が現実に備えている形質の機能形態学的・生態学的機能把握」を推進した。ベトナム産家禽の低生産性の理解とその人間側の受容の問題を引き続き論議している。またタイにおけるヤケイと家禽の関係性の今日的変革を課題として検討した。「低生産性品種がこれまでどのようにして人間社会に受け入れられ、愛されてきたか」、そして「その行く末は何も策を講じなければどういう結果に至るか」を論議するには、人間の精神世界・心象に踏み込み、事象の理論化を進めるしかなかろう。このことは、すなわち「命と人間の接触面の学融合的解析」が重要であることを意味する。実際、研究組織は、調査地を中心にこの学融合的解析を続けている。原初的家畜化という意味では、人文科学的に食肉に向けられる社会の価値観、家畜・牧畜の起源と狩猟の精神性を論議するに至っている。また研究の現状は、「低生産性家畜継承モデル」の確立に近づいている。このモデルは、問題の市場原理的解決策を提示するものではなく、人間と家畜生命との間柄の比較総合によって成立することが明らかである。社会的課題である「低生産性家畜の継承」の道筋を検討し、農村社会の解析に基づく、パラダイム転換を提起したい。家畜と人間の間柄に新たな真理と価値を見出す研究として、解析と総合を継続、「低生産性家畜継承モデル」の論議を深めている。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
30年度までにおいて、低生産性家畜の実態を生物学的および人文科学的に検討している。まず生態人類学、民俗学的、農村社会学的、民族学的手法から、各調査地においていくつかの実態を把握することに成功した。調査地としてアジアおよびインド洋圏で研究を推進し、家畜化と牧畜の起源を生態人類学から解析し、理解を深めた。食肉行為における人間社会側の精神世界と、狩猟と牧畜の境界面における人間社会の変化を論じることができた。それ以外にも、家畜を見る人間の感性論を論議することができた。家畜家禽に対する形態生理学、生態人類学的検討課題の解明を進捗させ、アジア・インド洋圏のセキショクヤケイ・在来ニワトリ集団、イノシシ・ブタの飼育様態、農耕作業面からの畜力の検証が進んでいる。今後各研究領域からの国際水準での発表が見込まれる。形態学・生理学では、セキショクヤケイの変異論のほか、ウマ、スイギュウの比較形態学を深化させている。ラオス、ベトナムとタイ、インドネシアそして欧州東部における在来鶏、在来豚、在来牛の個体レベルでの形態学的・生理学的的特性について吟味を継続している。
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今後の研究の推進方策 |
平成 31 年度以降は、形態学領域ではデジタル解析空間における三次元マクロ情報を、生態学的データについてはニワトリやウマでの進捗を基礎に、東南アジア南アジアを中心に在来品種集団の性能特性を明らかにしたいと考える。希少品種や絶滅しつつある形質を含むケースが多くなるため、現地農村からの標本導入を推進する。動物園からの関連動物死体の収集を含め、家畜研究のマテリアルエビデンスを支える一次標本として、扱う家畜・関連動物群の標本化と解析、標本情報公開を進める。形態学生理学では、人間が低生産性形質に対して、それを維持していこうとする動機を解析・予測する。人文科学的には、インド洋圏を中心に、家畜化と狩猟の境界面での人間個人と人間社会の精神世界の変化を追い続けることで、解明を図りたいと考えている。飼育者の精神世界や文化的伝統的風土に学融合的手法を適用し、家畜家禽の背景にある人間と社会の側の動機を解析したい。最終的に、説得力ある論理に基づいて「低生産性家畜継承モデル」を完成させ、国内外に普遍的に広め、パラダイム転換に結実させる。
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次年度使用額が生じた理由 |
東南アジアおよび南アジアおよび日本国内での、とくに形態学・生理学と生態人類学的検討を従前の予想以上に推進することができたため、30年度内の渡航調査および解析作業を集約し、31年度以降に合理的にまとめることができるようになった。そのため、本来は30年度分とされていた予算を31年度以降に充当し、研究の深化と拡大を合理的に行うべく、次年度の予算執行を計画した。
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