研究課題/領域番号 |
17KT0075
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研究機関 | 静岡大学 |
研究代表者 |
本橋 令子 静岡大学, 農学部, 教授 (90332296)
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研究分担者 |
有江 力 東京農工大学, (連合)農学研究科(研究院), 教授 (00211706)
新井 映子 静岡県立大学, 食品栄養科学部, 教授 (90134783)
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研究期間 (年度) |
2017-07-18 – 2020-03-31
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キーワード | サトイモ / 遺伝資源保存法 / 系統整備 / Fusarium / 成分分析 |
研究実績の概要 |
サトイモ (Taro.Colocasia esculenta)は、熱帯から温帯にかけ広く、水田、畑地、山地などの栽培・生態環境に適し、特に環太平洋諸島などでは欠くことのできない作物である。しかしながら、多くの品種の減少が危惧され、多様性に富む品種資源に関する異分野横断型の総合研究は皆無と言えよう。本研究は、次世代に必要な農資源を継承していくために A.遺伝資源の保全、B. 遺伝資源としての品種特性などの分子遺伝学的解析、C. 耐病性基盤研究、また、高齢化社会の食生活、幼児期の食の安全に欠かせない問題と考え D. 栄養学、調理学的研究など基盤研究を行うことを目的としている。 A.ゲノム配列が決定されていないサトイモにおいてDNAマーカーの作出法は限られており、多型検出が高い19のSSR(Simple Sequence Repeat)マーカーを用いて、日本の在来品種群を含む東南アジア、アフリカ、オセアニアなどの系統解析を行うと共に、葉緑体ゲノムマーカーを加え、日本在来種の祖先種の解析も開始した。 B.タロイモの超低温保存法の1つであるガラス化法とクライオプレートを用いて、土垂品種の培養茎頂の超低温保存法の確立を試み結果、75%以上の高い生存率を得た。 C.鹿児島の土壌より、H29年度に分離したFusarium solaniに加え、F. oxysporumも分離し、共にサトイモに病原性を示した。また、F.solaniが病原性が強い事を見出した。さらに、Trichoderma属菌(未同定)を鹿児島の土壌より分離した。 D.サトイモの成分で品種間差が大きいのはタンパク質と食物繊維であり、同一の品種の親芋と子芋の成分を比較した結果、タンパク質は子芋が多い傾向があり、糖質はすべての品種で親芋の方が多い事が解った。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
A.サトイモ遺伝資源の系統整備:土垂、糖芋、黒軸、セレベス、蓮葉芋など117系統を選び、26SSRマーカーの内、多型が観察された19SSRマーカーにより得られたバンドパターンをARWIN software version 6 (Perrier 2003)を用いて、UPGMA法により系統樹を作製した。 B.培養茎頂を用いた遺伝資源保存法の確立:イモから直接生えた芽から得た茎頂を茎頂培養により無菌で栽培した植物体からの茎頂を用いて、ガラス化法とクライオプレート法を試みた結果、大きく生存率が向上した。また、ガラス化の方法を改変し、PVS2(脱水)処理を2時間0度で行うことにより75%以上の生存率効率を得た。 C.遺伝資源を活用した耐病性育種素材の探索:鹿児島県産の乾腐症状を示していたサトイモ塊茎から、選択培地などを用いて2株の糸状菌Fusarium oxysporumとF. solaniを分離し、塊茎を用いた両病原の接種系を確立した。又、人工汚染土壌を用いた接種系の確立を検討している。さらに、鹿児島土壌からTrichoderma属菌(未同定)を分離した。 D.サトイモ遺伝資源の活用法の確立:サトイモ成分の品種間差異の検討した結果、品種間差異が大きいのはタンパク質と食物繊維であることが判明した。タンパク質はぬめりを構成する糖タンパク質として重要な成分であり,食物繊維の性質や含量も食感に影響を与える。さらに,同一品種の親イモと子イモの成分を比較すると,タンパク質は子イモで含量が高く,糖質は親イモの方が含量が高いことが判明した。サトイモ粉末の乾燥条件の検討した結果、乾燥条件の違いにより,ペーストの硬さ,付着性および凝集性は変化することが判明した。中でも,蒸し加熱後に乾燥した粉末で調製したパーストは,最もやわらかく,付着性が低く,凝集性が高かった。
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今後の研究の推進方策 |
A.サトイモ遺伝資源の系統整備:SSRマーカーに葉緑体ゲノムマーカーを加え、日本在来種の祖先種の解析も開始すると共に、マーカー数を増やし、正確な系統解析を行う。また、各地域で栽培されている在来種などを収集し、病害抵抗性品種の選抜の材料とする。GRAS-Di法を用いて、病害抵抗性マーカーを作製しする準備を行い、病害抵抗性選抜育種に役立てる。 B.培養茎頂を用いた遺伝資源保存法の確立: タロイモの超低温保存法の1つであるガラス化法とクライオプレートを用いて、土垂品種の培養茎頂の超低温保存法の確立を試み結果、75%以上の高い生存率を得たので、その他の品種においても開発した方法が有効か検証する。 C.遺伝資源を活用した耐病性育種素材の探索:非病原性Fusarium oxysporumを用いて、F. solani、F. oxysporum両病害に対する生物防除試験を塊茎系および人工汚染土壌で実施する。平成30年度に鹿児島土壌から分離したTrichoderma属菌を用いた生物防除試験を塊茎系および人工汚染土壌で実施し、生物防除効果が見られたならば、このTrichoderma属菌の同定を行う。 D.サトイモ遺伝資源の活用法の確立:一般成分分析からサトイモの品種間および親子間で成分含量の違いを検出したので、更に詳細な成分分析としてデンプンの特性、粘質物の特性を解明する。成分の違いから、各サトイモの品種に適した新規高齢者食・介護食の検討として、品種の異なるサトイモを乾燥後に粉末化し、パンや米飯、粥などの米加工品に添加する。サトイモ粉末無添加をコントロールとして、テクスチャー測定と官能評価を行い、高齢者食や介護食としての適性を検討する。
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次年度使用額が生じた理由 |
サトイモのフザリュウムに対する圃場試験の時期が4月から9月ごろとなるため、4月の圃場試験の準備に、培地類、試薬類を使用する目的で次年度使用分として残した。2019年度の4月、5月に、圃場試験のための菌液準備に相当額を使用する予定である。
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