研究課題/領域番号 |
17KT0079
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研究機関 | 国立研究開発法人農業・食品産業技術総合研究機構 |
研究代表者 |
後藤 一寿 国立研究開発法人農業・食品産業技術総合研究機構, 本部, 所長・部門長 (70370616)
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研究分担者 |
高橋 京子 大阪大学, 総合学術博物館, 招へい教授 (00140400)
井形 雅代 東京農業大学, 国際食料情報学部, 准教授 (10231127)
御影 雅幸 東京農業大学, 農学部, 教授 (50115193)
妙田 貴生 東京農業大学, 生物産業学部, 教授 (80372986)
上西 良廣 国立研究開発法人農業・食品産業技術総合研究機構, 本部, 研究員 (60783248)
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研究期間 (年度) |
2017-07-18 – 2022-03-31
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キーワード | 大和芍薬 / 映像マニュアル / サフラン / 柿蒂 / センキュウ |
研究実績の概要 |
本年度は栽培方法の記録並びに、映像マニュアル試作、未利用部位の可能性探索を行った。 栽培研究では石川県羽咋郡志賀町の砂地において、漢方生薬「威霊仙」の1原植物であるサキシマボタンヅルの実生苗を栽培した。10株を植えつけた結果、全て活着し正常に生育することが明らかになった。加えて、同じ砂地にハトムギ及びエビスグサを播種し観察した結果、前者の生育は良くなかったが、後者については薬用部である種子を採取することができた。 森野旧薬園内において生薬原料として需要の大きい芍薬の栽培と映像マニュアルを制作を行った。薬用芍薬栽培には5年を要するが、地力の向上と維持がカギとなる。その作業経過及び定植後の芍薬の生育状況全てを撮影記録する計画である。定植品種は、先行研究で明らかにした大和芍薬とされる伝承的薬用種(4種)67株を2020年10月末に定植した。その後3回にわたる追肥、除草作業を実施した結果、3月末に定植株すべてに発芽を確認した。 吃逆治療薬「柿蒂」の国産化をめざし実際の臨床に供給しうる国産柿蒂の実証に取り組んだ。国産柿の樹上残存萼を活用し、中国市場品との品質比較などを実施した。品質は、熱水可溶成分カテキン類5成分を対象としたLC-MS/MSによる含有成分解析で評価した。 さらに薬用作物の未利用部位の有効活用を目指し、サフランの花弁、センキュウの地上部(いずれも未利用部位)の香気成分を分析した。サフラン花弁から発散される香気はいわゆる雌しべを乾燥させたサフランと同様であった。センキュウ地上部位は水蒸気蒸留によって香りを抽出し、常法に従って分析した。官能的にはセロリ様の香気が強く、分析データからもセロリの香調を示す化合物を検出した。さらに、重要香気成分として食品の調理感やスパイス香に寄与する成分のあることが特徴的であった。次年度以降、これら新知見を成果としてとりまとめ出版する計画である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
本年度はCovid 19感染症対策のため多くの研究計画を中止・延期にせざるを得なかった。具体的には、オランダCare Farm調査の中止、沖縄現地での栽培試験の延期、研究室での実験計画の変更など多くの対策が余儀なくされ、計画通りの研究ができなかった。そのため、多くの研究計画を次年度に繰り越し実施予定である。 一方で、芍薬の森野旧薬園での栽培試験(大和芍薬産地再生プロジェクト)の始動など、成果の社会実装を目指した活動がスタートできたことに加え「柿蒂」の市販品と国産品の比較分析や生産コスト比較等、新たなデータを得ることもできた。さらに、貴重な国産サフランの花弁の香気成分分析やセンキュウなどの未利用部位の食用利用や香料利用の可能性が見いだせたことは大きな成果といえる。今後、全体の成果とりまとめを目指し、出版計画のブラッシュアップをはかるとともに、次年度内の出版を目指し計画を進めることする。
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今後の研究の推進方策 |
本研究では、栽培試験に加えて等のフィールドリサーチに加えて、ケアファーム等の訪問調査も予定されている。これらの調査は現場への訪問が重要であるが、Covid 19パンデミック対策のため訪問調査に制限があり進捗していない。また、併せて経営調査や一般消費者に対する漢方処方に対する意識調査など計画が遅れており、これらの計画を次年度早急に実施予定である。栽培試験では砂地におけるサキシマボタンヅルの栽培を継続し、秋に薬用部の根を収穫する。別に、同じ砂地にベニバナ及びエビスグサを播種し生育を観察する。昨年度植え付けたトウキの砂地での栽培適否を判断する。砂地は肥料持ちが悪いため、一般的な農作物の栽培には不利であり、栽培可能な薬用植物種を探索する、等の計画を進める予定である。 サフランや芍薬の映像マニュアルの制作は進んでおり、これらをわかりやすく公開する準備を進めている。併せて、これまでの成果を出版としてとりまとめ広く公開する予定である。さらに、サフランやセンキュウなどの未利用部位の活用方法を検討し、事業社の意見も集めながら事業化の可能性について検討を進めることとしている。
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次年度使用額が生じた理由 |
最終年度にあたり、計画の遅れが生じたため、研究期間を一年延長することとした。当初予定していた国内の薬用作物生産農家の訪問調査や、東京農業大学により予定されていたオランダケアファームの現地調査などが、Covid19パンデミックにより計画が延期となり、旅費の大半を執行できなかったことが理由である。また、国内や海外での消費者調査の計画も遅延しており、執行に遅れが生じている。繰り越した予算は、漢方利用に関する消費者調査(国内1000名規模、海外500名規模を想定)やオランダケアファーム、国内薬用作物生産農家などの現地調査に支出する予定である。さらに国際シンポジウムなどの開催が難しいことから、研究成果をとりまとめた出版を計画しており、この費用に充てることとする。
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