研究課題/領域番号 |
17KT0081
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
松浦 幹太 東京大学, 生産技術研究所, 教授 (00292756)
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研究期間 (年度) |
2017-07-18 – 2022-03-31
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キーワード | トラスト基盤 / ブロックチェーン / 暗号通貨 / 高機能暗号 / セキュリティ経済学 |
研究実績の概要 |
トラスト基盤(ブロックチェーン)のテストネットワークにおいて、ノードの整備が進んだ。実際、発足当初6つだったものが、平成31年3月現在で30個(南北アメリカに7、アジアに9、ヨーロッパに13、アフリカに1)となり、令和元~2年度に予定している実装評価実験の質を確保できる可能性が高まった。 工学的研究では、まず、高機能暗号の研究において、秘密鍵が漏洩しても漏洩前の処理結果に悪影響が出ない鍵漏洩耐性に関する成果の完成度を高めた(主要な国際会議に2編採録、うち1編は最優秀論文賞を受賞)。これは、広いクラスの漏洩に耐えられることと、洗練されたモデル化が高く評価された結果である。人工知能のセキュリティに関しては、前年度にブラックボックス攻撃(「攻撃者が学習器の内部情報を知らない」という状況での攻撃)の研究で得た成果を展開した研究課題を設計中である。ただし、研究倫理の観点で成果公表プロセスに注意しなければならず、当該分野における研究倫理の取り組みが日本学術会議の分科会(本研究代表者らが幹事)や日本学術振興会の産学協力研究委員会でも議論中の課題であることから、業績として顕在化するのは研究期間最終盤になる見込みである。 経済学的な研究では、ブロックチェーンの応用でリスク管理に有効な経済学的モデルの一般化を進めた。具体的には、トークンを4つの属性に着目してモデル化し、詳しい内容を国際誌の招待論文や著書で発表した。とくに、適合確率過程という概念で一般化した属性が、暗号通貨を安定させるだけでなく、電子証拠物として本質的に新しい機能を実現することを示した。 以上要するに、「個別成果の完成度を高めるとともに、その中からさらに厳選して本研究の研究期間後半における本格的な実装評価研究に反映させるものを選ぶ」という平成30年度の研究推進方策を、工学的研究と経済学的研究の両方で概ね遂行できた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
トラスト基盤のテストネットワークにおいてノードの整備が順調に進み、全世界に30個までになった。さらに拡大基調にあり、本研究で予定している実装評価実験の実施環境が改善されている。また、工学的研究と経済学的研究で初年度に得た成果の完成度を高めて発表することを予定していた個別研究から、国際会議における受賞や国際誌招待論文などの業績が、順調に出ている。研究倫理の観点から成果公表までに時間を要する可能性のある内容も別に抱えているが、それを補って余りある状況なので、総合的に考えれば概ね順調に進んでいると言える。
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今後の研究の推進方策 |
トラスト基盤のテストネットワーク整備に関しては、その環境を利用して開始済みの技術コンペティションを活用するなどして、技術レベルの強化と緩やかな連携ネットワークの拡大を進める。ただし、人工知能へのブラックボックス攻撃対策と関連づけた具体的な研究課題の設計は、研究倫理への取り組み規範整備状況を注視し、慎重に進める。本研究代表者は、当該テーマを議論している日本学術会議の分科会で幹事をつとめるなどしており、最新の状況を正確に把握できる見込みである。 本研究期間後半における理論研究の中心として、適合確率過程の活用が有望であることが、平成30年度の経済学的研究で明らかになった。この着眼点を、工学的研究と融合させることを試みる。具体的には、ブロックチェーンのコンセンサスプロトコルにおいて暗号要素技術を実装する際に、いくつかのランダムネス発生源が登場する。それらを適合確率過程と組み合わせれば、従来のトラスト基盤に欠けていた「『ある特定の時刻までは、その処理が有効化あるいは検証されていなかったこと』を証明する機能」を高いレベルで実現できる可能性がある。この可能性を追求するよう、研究を推進したい。
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次年度使用額が生じた理由 |
本研究に関するインタラクティブな発表・討議が可能な国際会議が例年通りならば2月に開催される予定であったが、当該会議のスタイルが変わったため、同様の発表・討議が可能な6月開催の国際会議で代替することとした。よって、その旅費等として使用する。
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