研究課題/領域番号 |
17KT0081
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
松浦 幹太 東京大学, 生産技術研究所, 教授 (00292756)
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研究期間 (年度) |
2017-07-18 – 2022-03-31
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キーワード | トラスト基盤 / ブロックチェーン / 暗号通貨 / 高機能暗号 / 検証証明 / セキュリティ経済学 |
研究実績の概要 |
工学的研究では、高機能暗号の研究において、プライバシーに配慮した技術開発を進めた。トラスト基盤としてのブロックチェーンに実装するアプリケーションには、複雑なプライバシー要件が課されるものが少なくないと予想される。中でも、クエリを処理するサーバにクエリの意味を開示せず所望の品質で処理を実行させる仕組みは、汎用性の観点でトラスト基盤と親和性が高い。そこで、本研究では、汎用性と安全性評価を重視して、複数のプライバシー保護型高機能暗号技術で論文を著した。また、トラスト基盤で守る人工知能のセキュリティに関して、前年度までの成果を査読付きジャーナル論文としてまとめた。 経済学的な研究では、「ブロックチェーンに追加する最新の記録(暗号通貨の場合には、取引情報)が正しいことを信頼できるか(正しいことを誰かが確かに検証した証拠があるか)定かでない」という問題を行動経済学的に分析して抽出した。さらに、本研究の工学的アプローチ(暗号技術)によって問題解決方法を考案した。具体的には、ブロックチェーンのコンセンサスプロトコルに電子署名を実装する際に登場するランダムネス発生源を経済学的なモデルにおける適合確率過程と組み合わせ、従来のトラスト基盤に欠けていた検証証明(PoV: Proof-of-Verification)の機能を実現した。検証証明生成機能は最初からプロトコルに埋め込まれており、検証証明自体の検証はトラスト基盤の任意の参加者が実行可能である。必ずしも全参加者が検証しなくてもトラスト基盤の安全性を確保できるので、ネットワーク全体の経済効率向上の観点で波及効果の評価を進めている。ただし、テスト環境を活用した本格的な技術評価は、新型コロナウィルスの影響でネットワーク環境の整備と管理を十分できないことから、当面の間延期し評価方法の見直しを検討している。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究の特徴である工学的アプローチと経済学的アプローチの融合によって、検証証明の研究を進めることができた。とくに、パブリックなブロックチェーンの実装技術に優れた研究者が集う随一の国際会議に採択されて発表する機会に恵まれ、そこでの討論から、経済学的な波及効果を詳しく評価する道筋を得ることもできた。一部、テスト環境を活用した実験は滞っているが、主要な成果物をまとめる上でのダメージには至っていない。よって、総合的に考えれば、概ね順調に進んでいると言える。
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今後の研究の推進方策 |
本研究の特徴である工学的アプローチと経済学的アプローチの融合による成果が出てきたので、その本格的な評価を進めてプロジェクト全体の完成度を高める。具体的には、検証証明の波及効果を、環境経済学の観点で詳しく評価する。また、テストネットワークに依存せず独立したノードで実験できる技術評価の枠組みを新たに確立し、新型コロナウィルスの影響長期化や(小康状態になった後の)再燃等が見通せない中でも確実にプロジェクト終盤になすべきことを遂行できるよう、最終年度に備えてとりまとめの準備を進める。また、工学的研究の個別テーマに関しては、それぞれに論文化を進める。
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次年度使用額が生じた理由 |
2020年3月に参加予定だった国際会議が、新型コロナウィルスの影響で2020年11月に延期となったため。順調ならば、その2020年11月に参加するために使用する計画である。
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