研究実績の概要 |
これまでの研究活動における大きな進展は、スピン軌道相互作用を含めた反応経路探索の方法を開発したことである。スピンが反転するスピン禁制反応では、2つのポテンシャル曲面の非断熱遷移の場所が反応の遷移状態になり得る。本研究で開発した有効ハミルトニアン行列法を用いると、スピン反転経路を比較的簡単に見つけることができることが分かった。この方法をスピン反転を伴う遷移金属を含んだ触媒反応に応用した。具体的には、遷移金属の一価イオン(9種類の3d遷移金属原子:Sc, Ti, V, Cr, Mn, Fe, Co, Ni, Cu)とOCSの反応について、自動反応経路探索計算を行い、スピン反転が起こる分子構造とエネルギー障壁について考察した。これらの反応はCS結合の活性化を含んでおり、生物学上でも重要な反応である。計算の結果、遷移金属イオンのスピン多重度の異なるエネルギー準位差とスピン反転エネルギー準位に強い相関があることを見出した。また、スピン反転を起こす分子構造は遷移金属の種類にほとんど依存しないことも分かった。 次に、より複雑な化学反応であるニオブ原子とエチレンの反応へと展開した。これは、金属原子によるCH結合活性化に関連した有機化学分野でも重要な反応である。計算の結果、複数のスピン反転経路を見出し、これまで提唱されていた反応経路とかなり異なることを見出した。 以上の結果をジャーナル論文として発表した。
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