オキシルシフェリン励起状態の酵素の影響および理論計算レベルを検証するため、2018年度には、タンパク質と周囲の水分子を分子力学法(MM)で扱い、オキシルシフェリンに時間依存密度汎関数理論(TDDFT)法を用いるONIOM計算により励起状態の構造最適化を行った。この方法では、用いた初期配置によっては収束しにくいことがわかった。 この結果を受けて、2019年度は、古典分子動力学(MD)計算から得られる複数の構造を用いて、オキシルシフェリンを量子力学的手法(QM)領域に、残りをMM領域とするQM/MM計算により、励起エネルギーおよび振動子強度から発光スペクトルを求める方法を試みた。ところが、QM領域に用いるTDDFTやEOM-CCSDなどの励起計算方法により異なる励起エネルギーになり、どの計算方法による結果を用いたら良いのかわからない、という問題が起きた。発光体を含む外部環境の溶媒やタンパク質も含む、第一原理MD計算が実施されれば計算結果を評価することが可能である。しかし、タンパク質を含む大規模系に対する第一原理MD計算の実施は、現状の計算機性能では非常に難しい。 そこで、計算が可能である水溶液中のオキシルシフェリンの系に対し、ファンデルワールス力を考慮した第一原理MD計算を実施した。第一原理MD計算から得られた構造を用いて、溶媒を含むオキシルシフェリンの量子化学計算により吸収スペクトルを得た。得られた吸収スペクトルは、実験をよく説明した。今後、同じ系に対して古典MD計算を行い、吸収スペクトルを比較すれば、タンパク質を含む系に対しても計算方法の検証が可能であると考えられる。
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