研究課題/領域番号 |
17KT0096
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研究機関 | 信州大学 |
研究代表者 |
菅 博幸 信州大学, 学術研究院工学系, 教授 (60211299)
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研究分担者 |
戸田 泰徳 信州大学, 学術研究院工学系, 助教 (60758978)
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研究期間 (年度) |
2017-07-18 – 2020-03-31
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キーワード | ニトリルオキシド / ニトロン / 不斉付加環化 / 有機触媒 / 計算化学 / 遷移状態 / フロンティア軌道理論 |
研究実績の概要 |
単離可能な芳香族ニトリルオキシドと2-ヒドロキシスチレン類との付加環化反応をキニーネから誘導したキラルなアミンウレア存在下で行うと,付加環化体が高エナンチオ選択的に得られることを見出している.また,密度汎関数法(DFT)により遷移状態計算を行うと,キラルなアミンウレアのコンホメーションに由来するanti-open型の遷移状態がエネルギー的に好ましく,S立体配置を有する付加環化体が選択的に得られることを明らかにしている.一般に反応系中で発生させる脂肪族ニトリルオキシドの付加環化反応においては,高いレベルの不斉誘起を達成した報告例はほとんどない.そこで,対応するクロロオキシムからトリエチルアミンにより系中発生させたシクロヘキサンカルボキシニトリイルオキシドと3-メトキシ-2-ヒドロキシスチレンとの反応を30 mol%のキラルなアミンウレア存在下に検討した結果,高エナンチオ選択的(90% ee)かつ高収率(86%)で付加環化体が得られることを見出した.また,ペンチル基,イソブチル基,ベンジル基を有する脂肪族ニトリルオキシドでも良好なエナンチオ選択性(73-87% ee)を示すのに対して,シンナミル基およびフェニル基やトリル基を有する芳香族のニトリルオキシドを系中発生させた場合には,選択性は中程度(48-57% ee)になることを明らかにした.DFT計算により,シクロヘキサンカルボキシニトリイルオキシド,ベンゾニトリルオキシドおよび3-メトキシ-2-ヒドロキシスチレンのHOMO並びにLUMOのエネルギー準位を求めたところ,ベンゾニトリルオキシドの準位がヘキサンカルボキシニトリイルオキシドよりかなり低いためヒドロキシスチレンのHOMOとの反応性が高く,キラルなアミンウレアが関与しないバックグラウンド反応が起こりやすく,エナンチオ選択性が低下することが明らかとなった.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
キラルなアミンウレア存在下(100 mol%)におけるC,N-ジフェニルニトロンと3-メトキシ-2-ヒドロキシスチレンとの反応に関しては,初期の検討では50 ℃で3日間の反応時間を要していたが,反応溶液の濃度を倍にすることにより,45時間で反応が完結し,収率95%, endo:exo = 69:31, 86% ee (endo), 71% ee (exo)で付加環化体が得られることを明らかにしている.また,反応温度を80 ℃とすると24時間で反応は完結するものの,エナンチオ選択性は33% ee(endo),38% ee(exo)と大幅に低下することも見出している.親双極子剤として2-ヒドロキシスチレンを用いる反応やN-ベンジルニトロンの反応についても検討中であるが,エナンチオ選択性の決定には至っていない.また,アゾメチンイミンやニトリルイミンなど他の1,3-双極子についての検討には至っていない.平成30 年度以降に計画していたエポキシドと二酸化炭素のカップリング反応におけるの触媒開発については,ベンゼン環上に置換基を持たないホスホニウム塩触媒に関する,(1)エポキシドの開環段階と(2)二酸化炭素の固定化段階のDFT法による遷移状態計算が進行中であり,(2)二酸化炭素の固定化段階において,カーボネートへの環化段階が律速段階となると考えられる結果が得られている.以上の進捗状況から,総合的に判断して進行状況はやや遅れていると考えられる.
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今後の研究の推進方策 |
キラルなアミンウレア存在下におけるニトロンと2-ヒドロキシスチレン類との反応に関しては,キラルなアミンウレアの使用量を触媒量に低減するとともに更なるエナンチオ選択性の向上を目指した検討を行い,ニトロンおよび2-ヒドロキシスチレン類に関する基質一般性の検討を引き続き行いたい.ニトロンの不斉付加環化に対して,DFT計算により遷移状態を求めるとともに,反応を触媒的に活性化できる系としての情報を計算化学的に得ることにより,この触媒系によるニトロンの不斉付加環化を確立したい.また,この結果に基づいて,他の1,3-双極子を用いる反応にも適応できることを明らかにしたい. エポキシドと二酸化炭素のカップリング反応における触媒開発については,平成30 年度以降に計画していた遷移状態計算を平成29年度中に開始しており,研究計画段階で考えていた触媒構造の違いによる反応性の顕著な差は,(1)エポキシドの開環段階ではなく(2)二酸化炭素の固定化段階に起因するのではないかと考えられる結果が得られており,現在最も活性を示す触媒構造に関する計算を引き続き行いたい.最終的に,本触媒開発における詳細な反応機構を明確にすることを目標とする.
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