1) 窒素酸化物の酸化吸蔵機構に対する酸素分圧の効果 ディーゼルエンジンの排ガスなど酸素過剰な廃棄物気体系に含まれる窒素酸化物(NOx)を除くため、NOxを酸化吸蔵する触媒材料が開発されている。本年度の研究では、鉄系酸化物材料におけるNOxの酸化吸蔵の活性点と反応メカニズムを量子化学計算により解析し、触媒活性の酸素分圧に対する依存性を調べた。材料として、最近の研究でNOxの酸化吸蔵触媒としての応用が期待されている鉄‐ストロンチウムの層状複合酸化物を対象とした。 層状複合酸化物では、多様な表面が露出する可能性がある。それら可能性がある面の表面自由エネルギーを計算し、その酸素分圧依存性を調べた。概要としては、酸化ストロンチウムによる岩塩構造を取る層で結晶開裂して得られる面が最も安定であった。一方で酸化鉄構造が露出する面は、酸素分圧を上げることで熱力学的な安定性が増すことが分かった。 酸化鉄構造を取る表面はNOx酸化の活性点であり、酸化ストロンチウム面はNOxの吸蔵点として機能することを解明した。また、NOx酸化は格子酸素を用いるMars-van Krevelen機構で進行し、その遷移状態は、表面酸素欠陥をバルクの格子酸素で埋める過程である事を明らかにした。さらにバルク中の酸素欠陥の割合は酸素分圧に依存することが分かった。 理論計算の結果から、酸素分圧が高い状態では酸化鉄様表面におけるNOx酸化、特にNOからNO2への酸化が優先する。酸素が消費され分圧が低下すると酸化ストロンチウム面によるNO2などの高酸化NOxの吸蔵が優先する。こうした酸化吸蔵メカニズムを得ることができた。こうした知見に基づき、材料組成を修飾して必要な表面を優先して露出させることで、触媒活性の向上が期待できる。
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