研究課題/領域番号 |
17KT0099
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研究機関 | 大阪大学 |
研究代表者 |
山田 剛司 大阪大学, 理学研究科, 助教 (90432468)
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研究期間 (年度) |
2017-07-18 – 2020-03-31
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キーワード | 2光子光電子分光 / ダイナミクス / 非占有準位 / 有機半導体 |
研究実績の概要 |
分子が吸着した固体表面における光化学反応は、分子-基板間における化学結合の切断と生成を伴う過程が存在し、固体表面と分子との間でおこる電荷のやりとりが反応開始のきっかけとなりうる。電荷移動に伴う界面電子状態の時間変化をフェムト秒スケールから捉えることにより、光励起後の「遷移状態」の理解と反応制御に直結する描像を得ることが本研究の目的である。 2年度目となる今年度は、(1)時間分解測定におけるパルス遅延光路の整備を行い、(2)ペリレンからなる単層膜において、光励起状態からの脱励起に伴う発光をとらえることができた。 (1)の装置改良に関しては,光学遅延ステージを導入し,遅延時間ごとにスペクトルが得られるように装置改良を行っている。時間分解分光に関しては,2光子光電子分光による電子状態に限定せず,発光に関しても時分割測定を行えるように装置を改良している。 (2)に関し,2分子層膜以上の薄膜からの発光現象に関しては数例の報告があるが、単層膜からの発光は極めてまれである。非占有準位(LUMO,LUMO+1)などに励起された電子の失活は非常に早い時間スケールで起こる。これは基板に失活していく正孔の寿命の短さを反映しているものと考えられる。実測値として数100フェムト秒以下の寿命が観測されている。一方で,LUMOよりもさらに0.7eV程度低いエネルギー位置において数100ピコ秒程度以上の遅い寿命を持つ非占有準位が観測にかかった。同時に観測された発光分光の結果と併せて考えると,励起2量体による非占有準位であることが同定された。実際にSTM(走査トンネル顕微鏡)やLEED(低速電子線回折)による構造観察では,ペリレン分子による2量体が表面に形成されていることが判明している。構造と電子状態の情報を統合することにより,光励起後から発光に至るまでの遷移状態が実時間スケールで明らかになりつつある。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
装置整備と同時に測定を行い,ペリレンからなる単層膜において、光励起後の脱励起に伴う発光をとらえることができた。2分子層膜以上の薄膜からの発光現象に関しては数例の報告はあるが、単層膜からの発光は極めてまれである。特にSTM(走査トンネル顕微鏡)やLEED(低速電子線回折)による構造観察を同時に実行することができ,ペリレン分子による2量体が表面に形成されていることを明らかにすることができた。構造と電子状態の情報を統合することにより,光励起後から発行に至るまでの過程が実時間スケールで明らかになりつつある。 占有準位側の情報を得る手段として,既存の2光子光電子分光を用いても計測は可能であるものの,非占有準位との区別を行うためには波長依存測定を行わねばならず,迅速なピーク同定には適さない点もある。本年度の研究経費において,占有準位の電子状態を計測するための励起源(紫外光源)を導入することができた。これを用いることで光励起にかかわる占有・非占有準位を明確に同定することが可能となった。
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今後の研究の推進方策 |
光放出過程はナノ秒~マイクロ秒に至るやや遅い過程である。レーザーの繰り返し周波数から考えると、通常の遅延ステージを利用して時間分解測定を行うことに加え、光チョッパを用い,ナノ秒スケールの遅延時間をつけた後の2PPE分光・発光分光にも取り組む予定である。 本年度の研究経費において,占有準位の電子状態を計測するための励起源(紫外光源)を導入することができた。既存の2光子光電子分光を用いても占有準位を計測することが可能であるものの,非占有準位との区別を行うためには波長依存測定を行わねばならず,迅速なピーク同定には適さない点もある。整備した紫外光源を活用し,光遷移を起こす前に電子が存在する占有準位の計測に取り組んでいく。 また、電子分光器は角度分解測定に対応している。光遅延時間ごとに励起電子のエネルギー分散関係を取得することが可能であるため、これをもちいた角度・時間同時分解測定を目指す。これにより,遅延時間に応じた励起電子の有効質量を計測することができるようになることが期待される。光放出にいたるまでの、やや遅い過程において、重い有効質量の電子が観測されるようなトラップ準位があるかどうかは光化学反応進行においても興味深く,ここに注目して実験を行う必要がある。
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次年度使用額が生じた理由 |
前年度までの研究で,非占有準位の情報を得られるようになったが,占有準位の情報を包括的にとらえるため紫外線源を購入している。 旅費・そのほかの必要消耗品などについては別の研究経費経費で賄うことができたため,当初の見込みよりも剰余金が生じている。 最終年度に当たる次年度については,必要な消耗品(真空部品・光学部品)に加え,学会・シンポジウムの参加費用(旅費),英文校正費用,オープンアクセス費など,成果公表にかかる費用には傾斜的に配当して使用する予定である。
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