研究課題/領域番号 |
17KT0101
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研究機関 | 日本医科大学 |
研究代表者 |
藤崎 弘士 日本医科大学, 医学部, 准教授 (60573243)
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研究分担者 |
楯 真一 広島大学, 理学研究科, 教授 (20216998)
山本 典史 千葉工業大学, 工学部, 准教授 (30452163)
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研究期間 (年度) |
2017-07-18 – 2020-03-31
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キーワード | 遷移状態 / 酵素反応 / キネティクス / 自由エネルギー障壁 / 重み付きアンサンブル法 |
研究実績の概要 |
酵素反応は生命現象を考える上で非常に基本的なものではあるが、酵素反応の遷移状態や、そこを経由する経路、動的な性質などについては分かってことが多い。というのも,それは分子レベルで考えると非常にゆっくりとしたレアなイベント(rare event)であり、実験的に捉えることも理論計算で取り扱うことも難しいからである。最近、そういった系に対して自由エネルギー障壁などを計算し、遷移状態を特定する研究は進んできており、研究代表者や分担者もそのための手法(ストリング法など)の開発を行い、それを化学反応や酵素反応に応用してきた。ただし、そういった手法は準平衡系の概念に基づくので、直接ダイナミクスを調べることはできない。実験的には酵素反応を調べる際には、常に反応速度(キネティクス)が測られており、自由エネルギー障壁については遷移状態理論を仮定して「間接的に」推測するだけである。よって、実験との直接的な比較のためには、ダイナミクスを詳細に追う計算手法が求められる。 そこで今年度は、酵素反応のダイナミクスを計算することを念頭において、そのための有望な手法である、重み付きアンサンブル(weighted ensemble, WE)法を用いた計算をテスト分子系に対して行った。テスト分子系としては、10残基のペプチドであるシニョリン(chignolin)を用いた。その結果得られた構造変化の時間スケールは10ナノ秒ほどであり、これは以前に代表者が別の手法(マルコフ状態モデルやマイルストーン法)で求めたものと一致した。また、WE法を適用する際にはオーダーパラメータをうまくとることが重要となるが、ここでは多様体学習の手法の一つである拡散マップを用いて座標を定め、それが適切な座標であることも確認した。この研究と並行して、PIN1酵素の異性化ダイナミクスのWE法を用いた計算も行っている。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
酵素反応の反応経路やダイナミクスを求める手法を開発し、それを実験で得られている酵素反応のデータに適用することが目的であるが、今年度は生体分子のダイナミクスを計算できる手法として重み付きアンサンブル法の計算を進め、小さな分子系(10残基のシニョリン)できちんと計算できることを示した。また実際の酵素であるPIN1に対しても計算を既に開始しており、予備的な結果は出ているため。
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今後の研究の推進方策 |
現在はPIN1酵素に対する重み付きアンサンブル法の計算を進めており、予備的な結果も得られているが、大きな系のため計算のコストや時間がかかっている。よって、より大きな計算機資源を使うと同時に、重み付きアンサンブル法をさらに効率化する研究も進める必要がある。そのために、重み付きアンサンブル法を他の系に適用している森次圭氏(横浜市大)を分担者として加え、共同研究することでこの方向の研究を加速することを考えている。また、分担者の山本典史氏(千葉工業大)とは、QM/MM法を用いた、酵素内での化学反応の計算も進める予定である。それらを分担者の楯真一氏(広島大)の実験データと比較することが最終的な目標である。
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次年度使用額が生じた理由 |
計算機を1台購入する予定であったが、最終的な選定が遅れてしまい、次年度に持ち越しとなってしまった。現在、購入先の業者なども決定し、発注をかけているところである。
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