研究課題
アフリカツメガエル頭部神経堤細胞は細胞接着を完全に失う事なく集団的に移動する事が知られていたが、生体内の立体狭窄部などではどのようなメカニズムで集団移動をしているのかがわかっていなかった。先行研究においてLPAR2をノックダウンした神経堤細胞が細胞接着を異常に安定化させN-cadherin分子を細胞内に取り込む事ができなくなると立体狭窄において集団全体の形を変えることができず移動できなくなる、つまりLPAR2シグナルを受け取る事で集団内の組織流動性を獲得して立体狭窄に合わせて変形することができるので集団性を失うことなく移動できるということを見出した。この研究によって産まれた新たな疑問として神経堤細胞塊は立体狭窄を認識して変形するのか、それとも遺伝子プログラムによって予め流動性を獲得した細胞群が立体狭窄をすり抜けるのか?がわからなかった。そこで基質を含め周辺環境の硬さに注目し、基質に硬さの異なる縞状の構造を作る事で神経堤細胞がその場その場で狭窄の境界を硬さの違いとして認識している可能性を模索しようとした。光の照射によって分子間に架橋を生む物質と重合させたゼラチンにより硬さの異なる縞を持つ基質を作成し、神経堤細胞を置いたところ硬さの境界面に沿って他の刺激を与えなくとも移動を始めた。元になった疑問は完全には解明されていないが、神経堤細胞が硬さの違いを認識できる事が分かったのでおそらく集団全体が水のように流動性を獲得した訳ではなく、立体狭窄に接触して硬さの異なる部分を認識して変形しているものと考えられる。これを集団的弾性応答(Collective Durotaxis)と呼び、そのメカニズムと生体内移動の関係について調べる事にした。
4: 遅れている
現在までの研究で硬さの差ではなく割合を認識していることが分かった。硬さの比が50倍から100倍程度のゲルにおいて非常に長い距離を移動し、その縞のサイズも移動に関係していることが分かった。しかしながら光重合ゼラチンで構成できる硬さが例えば2kPaと200kPaであるのに対し、ロンドン大学のRoberto Mayorグループから報告された神経堤細胞周辺の生体内の足場環境の硬さは1~2 Paと数100 Paであった。ゼラチンゲルではkPaオーダーのゲルを作成することは可能だが数Paのものは作ることができない。生体内の硬さは我々のゲルの誤差範囲にも満たない硬さである。このギャップはどのようにして埋める事ができるだろうか?まず連携研究者にお願いしてゲルのプロセッシング方法を模索した。しかしながら色々と条件を変えていくうちに全く集団移動が再現できなくなってしまった。結果ストライプを狭くしすぎて集団が硬さの境界を認識できなくなっていたようだった。ゲルの変更は最低限に抑え、神経堤細胞の状態を色々と変えることにした。ケモタキシス受容体のノックダウンでは移動は無くならなかったが、Co-attractionという細胞を集合させるシグナルの阻害は移動を阻害した。さらにLPAR2の阻害により細胞間接着を安定化させた集団も移動できなかった。追加の仮説として細胞集団が感知している硬さはゲルの硬さとは異なるのではないかと考えた。現在は硬さを測定するテンションセンサーを用いて実際に細胞が感知している硬さを生体内での硬さと比較しようと研究を進めている。
FRETテンションセンサーを導入しゲル上で神経堤細胞が感知している細胞内張力と移動中の神経堤細胞内での張力を比較しようと考えている。別の培養細胞を用いたFRET解析では1kPaと4kPaの比較でもテンションセンサーのFRET効率には差が出るようだが細胞内の張力の平均値は硬い4kPaの方が高かった。張力が上昇するとセンサーが引っ張られFRET効率が落ちる仕組みなので低くなるはずだが両者の接着状態が違った。細胞間接着によって集団全体の張力は相殺され基質の強度より低い硬さを感知している可能性について明らかにし、その上で硬さの差と移動との関係を明らかにしていく。
研究の遅れにより硬さの認識により活性化する遺伝子を網羅的に解析する予定であったが助成期間中にそこまで進めなかった。他グループからの論文により新たに説明しなければならない事項が増えその準備に追われて網羅的解析には至らなかった。本研究を取りまとめた論文を作成中であるので論文の投稿料と追加実験に必要な経費として使用する。
すべて 2018
すべて 雑誌論文 (4件) (うち査読あり 4件) 学会発表 (2件)
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