本研究はアフリカツメガエル神経堤細胞という細胞集団が細胞外基質の硬さの境界を認識して移動する集団的メカノタクシスにおいて集団が周辺環境をどのようにして認識しているかを明らかにしようと発案した。特に集団的細胞遊走の「足場」の細胞塊に対する「広さ」と「硬さ」の2要素について細胞外基質を「操作する」ことで感知メカニズムの理解を目指した。まず集団に対して十分に広い均一な平面において硬さを数kPa~数100kPaまで操作したところ比較的柔らかい基質上では移動できず中強度で集団移動を始め、100kPaを超える硬さでは細胞同士が乖離した。このゲルを特殊な方法で縞状に硬さの異なるゲルを順番に並べると常に硬い縞の上を移動することを見出した。そこで細胞集団の状態を色々と試した結果、ケモカインという細胞誘引因子の一つCXCL12-CXCR4が神経堤移動に関与している事が知られていたが、CXCR4のノックダウンでも移動を起こしたためケモカインとは並行な経路で制御されている事、細胞集団同士を引き合う別の細胞誘引因子であるC3-C3R経路もメカノタクシスとは関係しなかった。また細胞同士の接着を制御しているN-cadherin分子のノックダウンも集団的メカノタクシスとは関係しなかったため別のカドヘリンの関与が考えられたが同定には至らなかった。唯一メカノタクシスを阻害したのはLPAR2シグナルで研究代表者らが過去に報告した細胞集団の集団内流動性に関わるシグナルでありメカノセンシングに関わる可能性を新たに見出した。しかしながら同じツメガエル胚を用いた研究で生体内の硬さの実測値とハイドロゲルを使った実験が報告され、我々のゲルより1000倍柔らかい事が報告されたため実験計画を一部変更し、細胞内の力学的な感知能と基質強度の間の関係を調べた。結果の詳細は報告書に記載する。
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