研究課題
広義のアメーバ運動(細胞遊走)は原生生物アメーバから高等動物の神経細胞の軸索伸長などにまで見られる普遍的な細胞機能である。魚類表皮細胞ケラトサイトは培養液に浮遊しているときは球形だか、基質に接着することで、特徴的な半月型の形状を示し弧を前として遊走し始める。本研究の目的は、走化性とは異なる、細胞が基質に接着することで前後極性を形成するメカニズムの解明である。アメーバ運動はアクチン重合にとって前端が伸長し、アクトミオシン収縮により後端が退縮することで前に進むと理解されている。したがって、前後極性の形成には重合するアクチンか、収縮力を発生するために必須のミオシンIIのいずれか、あるいは両方が必要であると予測される。我々は魚類表皮細胞ケラトサイトや細胞性粘菌アメーバがミオシンII依存的に基質との接触を介して前後極性を形成することを過去に予測している。オオアメーバ(Amoeba proteus)は前端の伸長はアクチン重合で起こらず、後端のアクトミオシン収縮による流動力で起きると言われている。今回、我々はこのオオアメーバもケラトサイトや細胞性粘菌アメーバと同様なミオシンII依存的な前後極性形成を示すことを示唆する結果を得た。すなわち、オオアメーバをシリコーンでできた弾性基質上に接着させ、この気質を繰り返し伸展させるとオオアメーバが伸展とは垂直な方向に移動することがわかった。この結果は、ケラトサイトや細胞性粘菌アメーバで見られる結果と同等であり、オオアメーバがアクチン重合をアメーバ運動に使わないことから、オオアメーバだけでなく、ケラトサイトや細胞性粘菌アメーバで見られたメカニズムもミオシンIIに依存することを更に強く示している。
2: おおむね順調に進展している
新型コロナウイルス感染症の全国的な広がりの影響で若干の研究の遅れがあり研究期間を延長したが、研究は概ね順調に進展している。
オオアメーバが接着した弾性基質を繰り返し伸展させる方法で解析されたメカノセンシング機構が、ケラトサイトや細胞性粘菌アメーバと同じことが今回示唆された。今後、オオアメーバがケラトサイトや細胞性粘菌アメーバと同様の Rigidity sensing を示すか、また示せば、それを利用してケラトサイト様の運動を行わせられるか検討する。
すべて 2020 2019
すべて 雑誌論文 (1件) (うち査読あり 1件、 オープンアクセス 1件) 学会発表 (4件) (うち国際学会 1件、 招待講演 1件)
PloS one
巻: 14 ページ: e0214736
10.1371/journal.pone.0214736