研究課題/領域番号 |
17KT0112
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研究機関 | 奈良先端科学技術大学院大学 |
研究代表者 |
作村 諭一 奈良先端科学技術大学院大学, バイオサイエンス研究科, 准教授 (50324968)
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研究分担者 |
別所 康全 奈良先端科学技術大学院大学, バイオサイエンス研究科, 教授 (70261253)
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研究期間 (年度) |
2017-07-18 – 2020-03-31
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キーワード | 体節形成 / 確率的転写 / 遺伝子発現同調 / 細胞間コミュニケーション |
研究実績の概要 |
個々の細胞は個性が強く、乱雑でありながら、多細胞としての組織は極めて安定した発達過程を見せる。本融合課題は、脊椎動物の発達時における遺伝子発現の速い同調と安定が、細胞の乱雑さ(確率性)によって実現されることを作業仮説とし、実験と数理をもってこれを示すことを目的とする。 これまでに、モデルパラメータの推定のための実験と、確率的にHes7遺伝子発現する過程の数理モデル化を行なった。具体的には、モデルパラメータを実験データから推定するために、マウス胚にヒートショックによる摂動を加え、細胞間の同調を破壊した。破壊後の幾つかのタイミングで胚を固定し、各細胞のHes7遺伝子の転写状態を観察した。細胞の確率的な遺伝子発現の数理モデルは、基本部分の定式化および数値計算による特性解析を行った。また、現在のところ、哺乳類の体節形成時の細胞間コミュニケーションが解明されていないため、いくつかの可能性について数理モデル化し、細胞集団の発現同調性を検証した。 目的の数理モデルの基礎部分が完成し、単位時間あたりのHes7発現平均開始回数の検証、細胞間相互作用のモデル化の検証、ヒートショック付加後のHes7 の集団平均の挙動の確認、ヒートショック付加後の周りの細胞からの入力値と抑制因子の挙動確認、モデルパラメータのグリッドサーチ、Hes7発現量の細胞集団平均の検証、を行った。 脊椎動物の体節形成におけるHes7の発現は、これまで自律的に周期を生み出し(時間遺伝子=原因)、その周期性が組織(体節=結果)の空間周期性に至ると考えられてきた。しかし実際には、単離された細胞は周期的発現をせず、確率的な発現様式(乱雑さ)を持っている。この事実は、「細胞の集団化」というシグナルが入力(原因)となって、「その集団の速い同調と周期性発現」という出力(結果)に至ることを示している。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当初の研究計画では、従来の決定論的な数理モデル(微分方程式)で構成された細胞による発現同調の限界を示すことが29年度の目的であった。実験データを定量化し、モデルパラメータを推定することで、細胞集団の発現同調速度を推定する予定であった。しかし、実験データの定量化方法で工夫が必要なこと、統計的に十分なデータを得るためにもう少し時間が必要なことから、30年度に行う予定であった確率的発現の数理モデルを前倒しで行なった。 また、遺伝子発現の確率性と周期性は相反する特性であるため、その論理的説明が困難になる可能性がある。そこで当初の計画通り、神経科学分野で明らかになっている神経集団の同期活性現象との類似性に基づいたモデル化方針により、その問題の解決の糸口を見出している。
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今後の研究の推進方策 |
本研究課題の目的は、細胞集団の速い発現同調が従来の決定論的数理モデルで説明できないこと、本来の発現が確率的であること、そしてその確率性こそが細胞集団の速い同調を生むこと、を示すことである。それぞれの数理モデル化と関連する実験は調整段階に入ったため、実験データと数理モデルの統合が今後の中心的な方針となる。 具体的にはデータ解析が中心的なタスクとなるが、実験およびそのデータの性質上、最も困難な研究フェーズになると予想される。全体的な枠組が大まかに構築できているため、データ解析に多くの研究リソースを投入し、研究課題を完遂させる予定である。 科学的な側面からの展望としては、本研究課題が従来の決定論的数理モデルを否定するわけではなく、すでに同調している細胞群の「集団平均の数理モデル」であること、その意味で、同調そのものを示すための概念としては不適切であること、一方で、本研究課題は同調自体を解決すべき問題と捉えていること、同調するためのシグナルが分子ではなく「細胞の集団化」にあることについて証拠を明確化する予定である。
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次年度使用額が生じた理由 |
本研究課題の申請時、研究代表者は現在と別の組織(愛知県立大学)に所属し、共同研究者の組織(奈良先端大)との往復の旅費を申請していたが、採択時は共同研究者と同じ組織となったこと。実験データの解析が昨年度の段階で不可能であり、そのための謝金を使用しなかったこと。
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