【目的】発生中期の脊椎動物胚は、体節と呼ばれる周期的な空間構造を形成する。体節形成のために、細胞群はHes7遺伝子の発現を同調してONとOFFさせる。この同調は、熱などの摂動で簡単に崩壊するため頑健性は持たないが、素早く同調を再開する回復性を持つ。また、単離された細胞は周期的遺伝子発現をしない。以上の研究背景から、これまで提唱されている遺伝子が周期的に発現する原理および細胞間が速く同調する原理とは根本的に異なるモデルを構成し、その妥当性を評価する。 【実施計画】近年の研究により、未分節中胚葉の細胞の周期的遺伝子発現が興奮性のシステムであることが示唆されているが、その実体は未解明である。既知の分子と相互作用を材料とし、細胞の周期的遺伝子発現の興奮性システムが構成可能であることを検証する。 【結果】研究期間前半では、Hes7の自己の発現抑制が一定の遅延で行われるのではなく、確率的な遅延で行われる細胞モデルを構成した。その細胞モデルを複数用意し、細胞間相互作用によって速い同調振動が行われることを示した(国際会議にて発表)。しかし、モデルの複雑さと反応の不安定さが問題として残った。そこで研究期間の後半では、関連する実験事実を洗い直し、確率的遅延から連続値の分子濃度への近似、およびNotchシグナル、Hes7、Lfng といった既知の分子群による興奮性システムの構成を試みた。その結果、これら既知の要素のみで興奮性システムを構成することに成功した。細胞を2Dに配置し、隣接細胞間の相互作用を導入したところ、未分節中胚葉の尾に相当する部分から頭方向に遺伝子発現の周期的な波が伝搬した。熱摂動に相当する強いノイズで振動を乱したあと摂動を停止すると、直後に発現同調が開始された。イントロン操作などその他多くの実験的知見を再現した(ここまでを国内会議で発表)。これらの結果を現在論文にまとめている。
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